[戒厳令] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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吉田喜重監督。別役実脚本。長谷川元吉撮影。一柳慧音楽。73年、ATG+現代映画社。


スカパー衛星劇場の録画にて鑑賞。[2・2・6事件]の首謀者とされる北一輝を中心に不穏に満ちた社会情勢を描いた作品。独特な長い台詞回し、白と黒を極端なコントラストで描く映像。カットの切り替え方も特徴的だし、舐めるようなカメラアングル。吉田喜重らしい独創的な映像ではあるが、観る側は北による思想と理論の中で置いてきぼりを食うのは否めない。


大正十年の晩夏。ある日、小さな風呂敷包みを持った女が、北一輝(三國蓮太郎のもとを訪れた。朝日平吾(辻萬長)の姉と名乗る女(八木昌子)は、風呂敷包みに入っている血染めの衣を一輝に渡した。それは、安田財閥の当主・善次郎を刺殺し、その場で自殺した平吾のものであった。平吾の遺書を読む西田税(菅野忠彦)その遺書には明きらかに、北一輝の「日本改造法案」の影響が読みとれた。一輝はその衣を、銀行へ持って行き、現われた頭取に、平吾がこの衣を自分のもとに届けた心情を語った。そんな一輝に頭取は金の入った包みを差し出した。昭和初期、陛下のため殉国捨身の奉公を願う一人の兵士(三宅康夫)がいた。「改造法案」はその兵士にとって、正に辞書だった。彼は“ある行動”の参加を許されたが、彼に連絡がないまま、計画は失敗に終った。兵士は連絡の来なかった理由を一輝に質問した。個人テロ的革命に否定的だった一輝は、西田に命じ、この計画から陸軍側の将校を引き上げさせたのだった。一輝は兵士に言った。この兵士に下された命令は、五月十五日、変電所を爆破することであった。だが、変電所に入ってはみたものの、命令を実行できなかった兵士は、妻(倉野章子)と共に一輝の家を訪れた。失敗を詫びる兵士を前にして、一輝は自分の思想が、次第に大きく広がっていくのに恐怖を感じていた。その時、西田が撃たれた。一輝の思想の理解できぬ青年たちにとって、西田は裏切り者の一輝の身代わりであった。時代はさらに逼迫していく。満州事変以後、アジアに新しい秩序は確立されず、政党政治の腐敗堕落、巷間には失業者があふれ、暗い世相が充ち満ちていた……。さまざまな政治的矛盾を一挙に解決すべく、青年将校たちは「改造法案」に、最も忠実な、天皇の軍隊を使った日本における、最初にして最後のクーデターを計画した。雪が音もなく降りしきる、昭和十一年二月二十六日の早朝、近衛歩兵連隊約千四百名の決起によって維新は開始された。雪の首都に分散した軍隊は次ぎ次ぎと政府要人を襲撃。ついに戒厳令が布かれた……。


脚本は不条理劇を得意とする別役実であり、吉田喜重とのコンビは合っているとは思うが、吉田喜重は何故、本作のような思想色の強い題材を選択するのか、様々な評を読んでみると、北一輝が抱いた、クーデター。国家転覆、その理論などを掘り下げているものが多いが、その背景にある監督の意図を考察したものがない。革命幻想。60年代後半から70年代前半、学生たちはベトナム戦争や社会の転換を求めて、学生運動に夢中になった。やがて、それに挫折、革命が幻想であったことに気づいていく。そんな自分たちが身近に感じてきた学生運動の終焉を北一輝の生き様に重ねているのではないか?深読みかもしれないが、自分にはいくら理論武装し、上手く立ち回ろうとしても、結局は幻想に終わることを暗示しているように思えてならない。


吉田喜重。[エロス+虐殺]など。