[赤線地帯] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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溝口健二監督。成沢昌成脚本。茂木好子一部原作。宮川一夫撮影。黛敏郎音楽。56年、大映配給。


スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて再観。この映画の撮影後、溝口監督が亡くなり、遺作になった作品。1956年5月に施行された売春禁止法制定前後の吉原を舞台に[夢の里]という特殊飲食店で働く娼婦たちの生き様をリアルに描き出す、女性群像劇。溝口監督にとって54年の[噂の女]以来の現代劇だが、長く不遇だった大映時代、[西鶴一代女][雨月物語]などでヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞、得意の女性を中心に据えた作品で復活しただけに、この映画でも、それぞれの女性像が悲喜こもごもに描かれ、実に深みのある作品に仕上がっている。


飲店「夢の里」には一人息子修一のために働くゆめ子(三益愛子)、汚職で入獄した父の二十万の保釈金のために身を売ったやすみ(若尾文子)、失業し労咳の夫をもつ通い娼婦のハナエ(木暮実千代)、元黒人兵のオンリーだったミッキー(京マチ子)などがいた。国会には売春禁止法案が上提されていた。「夢の里」の主人田谷(進藤栄太郎)は、法案が通れば娼婦は監獄へ入れられるといって彼女等を失望させた。新聞を読んで前借が無効になったと考えたより江(町田博子)はなじみ客の下駄屋の許へ飛び出したが、結局自堕落な生活にまた舞い戻ってくるのであった。ゆめ子は息子修一に会うために田舎へ行ったが、修一は親子の縁をきって東京に来ていた。ある雨の降る日、しず子(川上康子)という下働きの少女が「夢の里」に入って来た。ミッキーのおごりで無心に天丼をたべるしず子の瞳をみつめていたゆめ子が…。


溝口監督は、あえて主人公を決めず、それぞれの娼婦たちのドラマを掘り下げ、それぞれの生き様を描き出す。彼女たちの話は、それぞれが秀逸で実によく考えられている。作品内で、何度も売春禁止法の話が主人田谷からなされ、国会で流れた経緯が挿入される。赤線という戦前から日本に息づいた、一つの文化を何とか映像として残しておこうという監督の姿勢と、そこで暮らした最後の女達の 生々しい生き様が、活写され偶然とは言え、遺作に相応しい作品になったと感じる。


水谷浩による赤線地帯のセット、名手宮川一夫のキャメラ、不穏な空気を音楽にしたような黛敏郎の音楽、どれもがこの映画の完全度を高めており、出演している女優たちは京マチ子の洋風て粋なミッキー、金に対してこだわるやすみを演じた若尾文子、結核に苦しむ夫と子供のために働く木暮実千代演じるハナエ、そのどれもが個性的で上手いが、何と言っても[母もの]をやってきた三益愛子演じる夢子と息子のドラマは、この映画に深い味わいをもたらせていた。


溝口健二。[山椒太夫]など。