[狼は天使の匂い] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

力道の映画ブログ&小説・シナリオ

映画ブログです。特に70年代の映画をテーマで特集しています。また自作の小説、シナリオもアップしています。

ルネ・クレマン監督。デイビッド・グーディス原作。セバスチヤン・ジャプリゾ脚本。エドモンド・リチャード撮影。フランシス・レイ音楽。72年、仏・米合作。


スカパー、ザ・シネマの録画にて鑑賞。ルネ・クレマン監督晩年のクライム・サスペンスだが、ルイス・キャロルの引用から始まる物語には深みがあり、味わい深い映画に仕上がっている。


冒頭、ある少年達の出会いが挿入される。切られた袋からビー玉が転がる。そして、ルイス・キャロルの[愛しい人〜]から始まる[鏡の国のアリス]の引用で始まる。実はこのシーンは重要なので、ご覧になる際、記憶しておいて頂きたい。後でこう繋がるのか?とひざを叩かれると思うので。


デイビッド・グーディスの原作は骨格だけ使用され、ほぼジャプリゾのオリジナルに近い物語なのだが、主人公トニー(ジャン・ルイ・トランティニアン)が背負っている悲惨な過去、これも後半明らかになるのだが、こうした作品内に織り込まれたエピソードがこの作品に深い味わいを与えている。


トニー(ジャン・ルイ・トレンティニヤン)の逃亡していた。ロマ(ジプシー)のかしら(アンドレ・ローレンス)の復讐を誓った追跡。そのためにトニーはパリにいられなくなり、ニューヨーク、さらにカナダのモントリオールに逃げのだ。しかし執拗なロマの追跡のために、開催中の万国博覧会のアメリカ館に身を潜めた。そこで2人組による殺人事件を目撃する。殺された男レナは15000ドルをトニーに渡した。トニーはそのために一味に捕らえられ、ある島に連れ去られる。島では、一味のボス、チャーリー(ロバート・ライアン)に引き合わされ、他にも、その情婦シュガー(レア・マッサリ)、女好きなの怪力マットン(アルド・レイ)、リッツィオ(ジャン・ガバン)、パウル(トニーが逃亡しようと車から突き落としたことが原因で亡くなる)その妹ペッパー(ティサ・ファロー)がいた。チャーリーは、金の行方を教えろと迫ったが、トニーは口を割らなかった。この島から逃げるためには橋を渡らなければならず、うまく渡ったとしても、そこにはロマたちが彼を待ち構えているに違いない。結局、逃げられないのだ。翌日、チャーリーたちは泥棒をに出かけた。一方、トニーは月日がたつに従ってチャーリーに親しみを感じ始め、シュガーとも親しくなった。やがてチャーリーが計画している大仕事に誘われ、仲間になることを承知した。一味の大仕事とは次のようなことだった。マッカーシーというギャングの顔役が近く法廷で裁かれることになっているが、彼を有罪にする唯1人の証人は頭の弱い女の子で、目下モントリオールの病院に厳重な警備つきでかくまわれている。チャーリー一味はこの証人を誘拐してマッカーシーに引き渡し、礼金100万ドルをせしめようといたこだ。病院の隣のコンサート・ホールを足がかりにして病院に入るという計画は完璧のように思われたが…。


あることがきっかけになり、計画は警察に筒抜けになってしまうのだが、一味が記念撮影をした時にその要因が実は提示されているのだが、チャーリーたちもまさかそれが計画に綻びを持たせることになるとは気づかないあたりが、何ともアイロニカルで、ジャプリゾのテクニックを感じさせる。


色男であるトニーを巡って、チャーリーの情婦シュガーと兄を殺した犯人にも関わらず恋心を抱く妹ペッパーの女たちの情念と心理的な駆け引きも盛り込まれ、物語はさらに深い人間ドラマを形成していく。


途中、トニーの記憶にロマとの出来事がサブリミナルのように挟み込む、いぶし銀のクレマン監督のテクニックも秀逸。バックをあのフランシス・レイの重厚感を感じさせる旋律が包み込み、ラストにかけて、過去が明らかになるに連れ、男たちの粋な生き様が鮮烈に描き出されていた。



ルネ・クレマン。[太陽がいっぱい][禁じられた遊び]など。