山中貞雄監督・原作。河竹黙阿弥元原作。三村伸太郎脚本。町井春海撮影。西悟郎音楽。36年、日活配給。
スカパーの録画にて鑑賞。名匠山中貞雄監督作品の残された三本のうちの一作。歌舞伎や狂言に登場する河内山宗俊を主人公に困窮した女性のために命がけで戦う男たちを描いた時代劇。
これ時代を越えた面白さがある!宗俊と金子の出会い、広太郎、お波姉弟のエピソードと繋がり物語が転がっていく。人情劇としての面白さ、そしてクライマックスのエネルギッシュな活劇。一切の無駄を省いたテンポの良さ、圧倒された。
甘酒屋で生計を建てているお浪(原節子)には広太郎(市川扇升)という弟がいるが、彼は無頼に憧れ賭場に出入りし始めていた。所場代を取り立てて歩く森田屋用心棒金子市之丞(中村翫右衞門)はそんなお浪をいじらしく思いわざと所場代を取り立てない。ある日広太郎は店に来ていた侍から小柄を盗む。露店の賭け将棋に興じていた河内山宗俊(河原崎長十郎)は、それを見ていた広太郎の忠告からいかさまを見抜き逆に50両をせしめた。家に帰った宗俊は、弟を心配して訪ねてきたお浪と出会い、広太郎を探すことを請け合う。広太郎は直次郎と偽名を告げていたので宗俊は気付かないまま、せしめた金で遊郭に繰り出すのだった。 そこで広太郎は幼なじみの三千歳と再開。お浪の元に小柄の返却を求めて侍・松前家重役北村大膳(清川荘司)が詰め寄る。小柄は昔将軍家から贈られたもので、それを前殿よりもらい受けたものだった。小柄は競りに出され、本物と気付かないまま大膳の元に戻る。お浪のことで喧嘩となった宗俊と市之丞だが、すぐに意気投合し、仲良く甘酒をすするのだった。 森田屋に身請けされる三千歳を救うため広太郎は宗俊に助けを求めるが、宗俊は不在で代わって出た情婦のお静(山岸しづ江)に冷たく断られ、進退窮まった三千歳と広太郎は入水心中を図る。市之丞を連れて家に帰った宗俊は、お静の嫌みに反発して呑みに出かける。翌朝宗俊を訪ねたお浪だが、お静に侮辱の言葉を投げつけられる。家に戻ったお浪はそこに広太郎を見る。三千歳は溺死だが広太郎は生きていたのだった。そこに森田屋清蔵(坂東調右衛門が訪れ、三千歳の身請け料300両を弁償しろと訴える。もし金が用意できなければお浪に身代わりになれと言い残す。 市之丞は森田屋親分にお浪から300両を受け取ってこいと命令される。お浪の家を訪ねた市之丞はそこで広太郎から事情とお浪が身売りしたことを聞く。市之丞は急いで宗俊に相談、お浪を救出し自宅に匿うが…。
若き日の原節子演じるお浪に対するしづ江の女の嫉妬。彼女と弟を何とか救おうと立ち上がる宗俊と金子、男気を感じさせる人間ドラマも深く、小柄を物語のキイポイントに使った小物使いの上手さも秀逸。片足が不自由な金子を演じる翫右衛門と宗俊の長十郎の掛け合いのような台詞のやり取りが見せる。
この映画も含めて、山中貞雄の残された三本の映画を観ると、焼失されたり、失われたフィルムの中には名作がもっとあったのだろうと残念でならない。また、戦争により稀有の才能を失ったことは日本映画界にとって大きな喪失だったと改めて感じた。
DVDはレンタルにあります。
山中貞雄。[人情紙風船]など。