[歌行燈]60年版 | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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衣笠貞之助監督・脚本。泉鏡花原作。相良準脚本。渡辺公生撮影。斉藤一郎音楽。60年、大映配給。


スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて鑑賞。


以前に成瀬巳喜男監督の43年に撮られた作品を紹介したが、こちらはカラーだし、山本富士子の和風美、そして何と言っても市川雷蔵が醸し出す品格、風情、男の色気が能を舞台にした鏡花の作品世界に見事にマッチしており、より格調の高さを感じさせる作品だ。



明治三十年、伊勢山田。東京から観世流家元恩地源三郎(柳永二郎)と嫡子喜多八(市川雷蔵)を迎えて家元連中の奉納能が華やかに行われた。盲目の謡曲指南宗山(荒木忍)は娘のお袖(山本富士子)と二人町を歩いた按摩だったが、今は妾を二人もつ町一番の師匠だった。恩地親子の権勢を煙たがる宗山を、旅姿に扮した喜多八が訪ね、田舎天狗の鼻をへし折って立ち去っる。自分の芸に自信を失った宗山は古井戸に身を投げた。源三郎は喜多八を謡曲界から破門して宗山に詑びた。焼香に来た喜多八は、美しく気性の勝ったお袖を一目で愛したが、その日より諸国を門付して歩く身となった。芸妓に身をおとしたお袖は、父を思うと一切芸事には身が入らず芸の出来ない芸者は惨めだった。桑名の島屋に抱えられた或る夜、門付して地廻りと揉めた喜多八に会った。安宿で介抱するお袖は父の仇も忘れて喜多八を愛した。お袖が仕舞の稽古を頼むと、以来父より謡を禁じられた喜多八は喜んで引受けた。早暁の裏山で二人のきびしい稽古は続き、お袖の舞う“玉の段”が仕上る時、それは二人の新しい生活の始まる日だったが。



映画の中盤、刑務所に入れられた喜多八は待ち合わせに現れず、請け出しが決まって悲しみにくれるお袖が、喜多八と修行した場所で教えられた舞を舞うシーンがある。幻の喜多八に亡くなった父宗山の霊が重なり、荘厳な幻想美を感じさせる。


明治の家屋を再現するセット、衣装、役者たちの所作、その一つ一つに映画全盛時代の格調の高さが感じられ、品格を感じさせる作品に仕上がっている。鏡花原作の特徴でもある霊、それに悩まされる喜多八、宗山役荒木忍の風貌の怖さもあるが、衣笠監督は作品世界を巧みに再現している。


そして劇的なエンディングは喜多八がお袖に託した扇子をキイポイントに43年版同様に原作の持ち味を最大に生かしていた。



DVDはあります。



衣笠貞之助、[地獄門]など。