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是枝裕和監督・脚本・原作。山崎裕撮影。ゴンチチ音楽。08年、シネカノン配給。


スカパー日本映画専門チャンネルの録画にて、鑑賞。

最新作[万引き家族]がカンヌ国際映画祭で21年ぶりに日本映画でパルムドールに輝いた。是枝裕和監督の08年の作品。キネマ旬報5位。


是枝監督は[万引き家族]のインタビューで、家族物の監督と思われたら困ると苦笑いしていたが、昭和の小津安二郎、そして平成は是枝裕和と言っていいくらい、様々な家族の形を描いており、本作はその代表作。三家族、主には海で溺れた少年を救うために長男を亡くした家族が、それぞれの中でそのジレンマと向き合っている特殊な設定。主人公で次男の良多(阿部寛)はバツイチの子連れのゆかり(夏川結衣)と再婚。兄の命日に姉ちなみ(YOU]の家族と共に父母の家に帰省する一日を描く。登場人物それぞれにトラウマを持たせ、それを巧みにドラマに盛り込む巧緻に練られた秀逸な脚本。子役の使い方の上手さ、そして何と言っても、亡くなった長男に対する本音を漏らす母親とし子を演じた樹木希林の演技が素晴らしい。後に撮った[海よりもまだ深く]は本作の母子が気に入り、同じキャスティングにしたのではと思えるくらい、この配役は絶妙だった。



ある夏の終わり。横山良多(阿部寛)は、再婚したばかりの妻ゆかり(夏川結衣)、ゆかりの連れ子のあつし(田中祥平)ととも実家に向かっていた。その日は15年前に亡くなった横山家の長男、純平の命日だった。だが、失業中の良多は気が重い。実家に着いて仏壇に手を合わせた後、良多は母のとし子(樹木希林)、引退した開業医の父・恭平(原田芳雄)、姉のちなみ(YOU)らと食卓を囲み、純平の思い出に花を咲かせる。午後、とし子と良多一家の四人で墓参りへ。途中、とし子とちなみ夫妻の同居が話題になるが、とし子は良多が戻ってきにくくなるという配慮から、これを断る。墓参りから戻ると、今井良雄という青年が線香を上げに来ていた。純平は、海で彼を助けようとして溺死したのだった。とし子は彼に、来年も来るようにと声を掛けて見送るが、恭平は“あんなやつのために”と悪態をつく。その言葉に、良多は“医者がそんなに偉いんですか”と声を荒げ…。


[ブルーライトヨコハマ]を巡る父親の浮気話のエピソード、明らかになる兄純平の死に纏わるエピソードどれもが秀逸で、作品の構成に深みを持たせている。連れ子のあつしが本当の父親の意思を継いでピアノの調理師になりたいというエピソードは、かつての良多の恭平に対する思いに繋がり、兄の存在と死が彼の人生を大きく影響を与えたことを観ている側に示唆してくる。

[誰も知らない][海街ダイアリー][そして父になる]など是枝監督はその代表作品の中で、家族の在り方を描き、その日常を代表する食卓の風景を作品世界に取り入れてきた。本作も例外ではなく、そこは大監督小津安二郎をリスペクトしていると言っていい。特筆すべきことは、その日常が観ている側に実にリアルに感じられるということなのだ、作り事でない自然な家族の日常を丁寧に切り取りながら、それぞれの


家族の形を提示してくるこの監督は、本人は否定したとしても、やはり現代を代表する家族を描ける監督と言っていい。


山崎裕の穏やかな陽光を生かしたキャメラ、静かに作品を支えるゴンチチの音楽もマッチしておら、見終わったあとに確かな感動を残してくれる秀作だ。


DVDはあります。


是枝裕和。[万引き家族]など。