[万引き家族]鑑賞記 | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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是枝裕和原案、監督、脚本、編集。近藤龍人撮影。細野晴臣音楽。2018年、ギャガ配給。


第71回カンヌ国際映画祭で、今村昌平の[うなぎ]以来21年ぶりにパルムドールを受賞した話題作。


例え歪んだ形ではあっても、血の繋がりよりも大切な絆、[誰も知らない]以来、家族の在り方について、問いかけてきた是枝監督が、家族を構成する登場人物それぞれに明かせない過去の秘密を描き込み、作品内でそれが明かされていくたびに、観る側に衝撃を与え、問題提起してくる映画である。韓国あたりだったら、陰惨な内容になりそうな映画をさらとありそうな日常を再現しながら描く、クールな是枝監督らしさ全開の映画だ。


再開発が進む東京の下町。朽ち果てたような住宅街に暮らす一家。日雇い労働者の父・治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は、生活のために“親子”ならではの連係プレーで万引きに励んでいた。その帰り、団地の廊下で母親に締め出され震えている幼い女の子を見つける。思わず家に連れて帰ってきた治に、妻・信代(安藤サクラ)は腹を立てるが、ゆり(佐々木みゆ)の体が傷だらけなことから境遇を察し、面倒を見ることにする。祖母・初枝(樹木希林)の年金を頼りに暮らす一家は、JK見学店でバイトをしている信代の妹・亜紀(松岡茉優)、新しい家族のゆりも加わり、貧しいながらも幸せに暮らしていたが……。


明らかにDVを受けているゆりを戻すことがいいことなのか?生活苦だからと言って息子に万引きをさせていいのか?日本社会の底辺が抱える問題はまだまだ奥が深いことを、是枝の問いかけてくる。かつて小津安二郎が[東京物語]で描いた、血の繋がりがある息子娘より、血の繋がりのない息子の妻の方がより家族らしいという問題提起は現代家庭にも繋がっていることを本作は提示している。


家族で行った海で翔太相手に親父ぶる治は、本当の親父より親父らしい。リリー・フランキーは本業を忘れるくらいに上手く、信代を演じた安藤サクラも、異様な状況下、感情を殺した演技で、

そこに日常に感じさせるからすごい。祖母、JK見学店で働く亜紀、翔太、それぞれの背景に現代家庭ぎ抱える問題を内包させ、松岡茉優、樹木希林、そして何より子役ふたりの演技が抜群で、役者たちの見事なアンサンブルを引き出す是枝演出の妙を感じさせる見事な家族映画に仕上がっている。



大和屋という駄菓子屋の親父(柄本明)が翔太にかけるひと言が彼の中で引き金になり、翔太にある決意を抱かせる。それをエンディングへの布石にするあたりが是枝監督の旨さで、添い寝をする治に対する翔太の問いかけと、バス停のシーンにおける翔太のひと言はそれに対するアンサーであり、観る者の心に衝撃となって突き刺さる。けして後味のいい映画ではないが、観ておかなくてはならない映画だ。


現在、劇場公開中。



是枝裕和。[歩いてと歩いても][海街ダイアリー]など。