[嘆きのピエタ]鑑賞記 | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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   キム・ギドク監督・脚本・編集。チョ・ヨンジク撮影。パク・イニョン音楽。12年、韓国。
  打ちのめしされた!凄まじい映画だ!

 母親の愛情をここまで哀しく、深く、残酷に、そしてシニカルに描き出した映画を僕は観たことがない。副題は、[愛と言う名の魔物]。

  12年第69回ウ゛ェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。キム・ギドクの新作にして、入魂の傑作だ!

  ソウルの清渓川(チョンゲチョン)。親の顔も知らない天涯孤独な借金取り立て人イ・ガンド(イ・ジョンジン)は30歳。
  債務者の多くは、町工場の経営者で、利子が3ヶ月で10倍にも膨らむ借金等返せるはずもなく、ガンドは血も涙もない非情さで彼らを障害者にして、保険金を返させるのだった。
 ある日、取り立ての帰り道、母親と称する謎の女(チョ・ミンス)がガンドの前な現れる。無言で2日もつきまとい、ガンドを捨てた赦しを乞うのだった。
 ガンドは、債務者を次々に痛めつけ、女は一部始終を見て、ガンドを罵倒する債務者を共に痛めつける。
 女はガンドに食材の生きたウナギを残し、携帯番号に[チャン・ミソン]と書いたカードが付いていた。

  債務者に自殺されて、取り立てに失敗したガンドはミソンに電話をして、母親の証拠を求める。何わされても耐え忍ぶミソンをガンドは徐々に母親として受け入れていくのだった……。 

  十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く、聖母マリア像(ピエタ)は、慈悲深き母の愛の象徴である。この映画は、それをなぞらえるような強靭で優しい母親の愛が痛烈な衝撃を伴って描かれる。ミソンを演じるチャン・ミソンが素晴らしい。数々の主演賞に輝く熱演で、母親の愛情と慟哭を表現している。

  オープニングは重要で、ガンドの○慰場面や残酷描写もあるが、目を背けてはならない!痛めつけられる債務者は全て、クライマックスに向けての緻密に張られた伏線になっており、一体どうなるのか? スリリングで一瞬たりとも目が離せない。

 また、ソウルの真ん中にあるという工場地帯の清渓川。ギドク自身若い頃に働いていたという町工場は、都会の金融街に押され、消滅しようとしており、名誉、権力、外見等を金銭で解決する韓国社会の現状が、消費者金融に置き換えられ描かれている。 資本主義の犠牲、経済的な理由で人々が傷つけられていく姿を描きたかったとギドクは語っており、本作の社会的なメッセージの一端になっている。

そして映画は、後半。あまりに衝撃の結末を迎えていくのだが、これ以上書くことは出来ないのが残念だ。

ドキュメンタリー[アリラン]で復活したギドクだが、やはりこの監督はモノが違う!
あまりに見事な復活であり、彼の作品の中でも3本の指に入る。傑作中の傑作だ!

  本年度の外国映画No.1は確定した!絶対にお見逃しなきよう!

  封印されてしまった[アーメン]も公開して頂きたい。

  劇場公開中。

キム・ギドク。[悪い男][うつせみ]等。