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前回の話

 

莉多子の頭上を目がけて、植木鉢が落ちてきた。

 

「莉多子さん!」

 

M田は必死で声をかけるが、莉多子の目は閉じたままだ。

 

なんてことだ・・・。

莉多子さんまで狙われるなんて!

 

莉多子を抱きかかえ、呆然としていると

騒ぎを聞きつけたのか、翔子がやってくるのが見えた。

 

一気に警戒モードになるM田。

 

犯人は真っ先に現場にやってくると、何かのミステリーで読んだことがある。

翔子が莉多子を狙ったのではないだろうか。

 

「莉多子さん、どうしたんです!?」

 

いつも冷静な翔子が、心底驚いているように見えた。

演技なのか、判断がつきかねる。

 

「莉多子さんの頭上目がけて、植木鉢が落ちてきたんです・・・・」

 

「そんな・・・」

 

翔子は一瞬絶句したが、すぐに莉多子の脈を測った。

 

「安心して!脈拍は正常よ。莉多子さんは生きているいるわ!」

 

「本当ですか!」

 

続いて祥子は落ちてきた植木鉢を調べ出した。

 

「どうやら植木鉢は莉多子さんに当たらなかったようね!」

 

「え?」

 

「植木鉢に血がついていないもの。莉多子さんも見る限り、ケガしているように見えないし」

 

「えっ・・・本当ですか!?では、なぜ莉多子さんは倒れているのでしょう?」

 

「おそらく、ショックで気を失っているだけだと思う。しばらく安静にしていれば、意識を取り戻すはず」

 

「よかったーー」

 

ホッと胸をなでおろすM田。

 

「ここにいたら寒さで凍えてしまうから、莉多子さんを中に運びましょう」

 

二人で莉多子を抱えて運び、ラウンジのソファに寝かせた。

 

 

19時になり、夕食の時間がやってきた。

莉多子はまだ目覚めていない。

 

莉多子の代わりにちか子が夕食を作った。

あり合わせの食材で作ったと思えないほど、豪華な料理だった。

 

「すごい、ちか子さん!どれも美味しいです!」

 

大興奮しながら、料理をほおばるM田。

 

「そう言ってもらえると、がんばって作った甲斐があるわ」

 

「ちか子さん、本当に料理がお上手なんですね。いいお嫁さんになれますよ!」

 

「ありがとう」

 

ちか子はふっと寂しそうに笑った。

 

料理を喜んで食べていたのはM田くらいで、

他の参加者たちは一同、暗い表情で食事をしていた。

莉多子まで狙われたのだから無理もない。

 

「なぜ莉多子さんは狙われたのでしょう?もし仮に婚活の神様リカティが犯人なら、婚活していない仲人の莉多子さんのことは狙わないと思うのですが」

 

加山がM田に問いかける。

 

「そうですね。やはりリカティは事件に無関係かと思われます。先ほど、莉多子さんは真犯人が誰かわかったので、夕食の時にみんなに話すと言っていたのです。だから、それを聞いた真犯人が莉多子さんを狙ったのでしょう・・・」

 

「ということは、真犯人はこの中にいると!?」

 

「おそらく・・・」

 

M田、加山、ちか子、和歌子、翔子。

真犯人はこの中にいる!

 

「カモさん、我々はもう犯人の目星がついているじゃないですか」

 

「そうですね・・・」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

ちか子が不安そうに尋ねる。

 

「はい。事件後、明らかに不審な行動をしている人物がいるのです。それは・・・」

 

「犯人は、お前だろっ!」

 

M田の言葉より先に加山が立ち上がり、一人の人物を指さした。

 

その先にいたのは翔子だった。

 

「我々はずっとお前のことを怪しいと思っていたんだ!」

 

加山に詰め寄られても、翔子は平然としていた。

 

「あなたたちが私を疑っていることには気づいていたわ。私はクス男さんに付きまとっていたから疑われても仕方ない。でも、犯人は私じゃないわよ」

 

「それなら、なぜ翔子さんは殺人事件が起こっても平然としていられたのでしょう。それに、ハブさんと貴子さんが亡くなった翌日、あなたはハブさんの部屋に入っていましたよね。二人の遺体がある部屋に入るなんて、普通は躊躇しますよ。犯人以外考えられません・・・」

 

M田の問いかけに、翔子はフッと笑った。

 

「殺人事件が起こっても冷静なのは、そういう性分なのよ。本当に慣れって怖いわね。ハブさんの部屋に入ったのは、現場検証するためよ。犯人が証拠隠滅を図る前に現場を見ておきたかったの」

 

「そんな言い逃れはできないぞ!証拠隠滅したかったのはお前のほうだろう!」

 

荒ぶる加山をなだめつつ、M田は優しく翔子に語り掛けた。

 

「さすがに一般人が現場検証していたなんて、無理すぎる設定です。翔子さん、本当のことを話してくれませんか?」

 

「本当のこと・・・そうね。じゃあお話するわ。私、今までみなさんを騙していたの。ウソをついていて、申し訳ないと思っているわ」

 

翔子はフーッとため息をつき、目を閉じた。

 

「我々を騙していたとは・・・?」

 

恐る恐る、M田が尋ねた。

 

ゆっくりと目を開ける翔子。

 

「私、自己紹介の時に仕事は社長秘書をしていると言っていたでしょ。実はあれはウソだったの」

 

「えっ・・・」

 

いきなり、職業詐称をカミングアウトされて拍子抜けする一同。

 

「私の職業を言ったら、きっと引かれると思って言えなかったの。

実は、私の本当の職業は……警察官なんです」

 

「えっ!?」

 

「私は結婚詐欺の容疑者として、クス男のことを追っていたの。婚活パーティーに潜入して、クス男とカップリングできたのに、勘づかれてLINEをブロックされてしまった。それで、クス男の足取りがつかめなくなったので、莉多子さんにお願いして、クス男と会える場を用意してもらったの」

 

「えっ、そんな事情が・・・。ビックリです」

 

呆気にとられるM田。

 

「莉多子さんも過去にクス男に騙された経験があったので、今回の計画に協力してれたわ。そして、もう一人、逮捕してほしい男がいるって相談されていたの。その男は手癖が悪いので、合宿で盗難事件が起こったら逮捕してほしいと言われていたのよ」

 

「それは・・・ハブのことですね」

 

「ええ」

 

「なるほど。なぜ莉多子さんが合宿にハブとクス男を呼んだのかようやく理解できました。あなたに逮捕させるためだったんですね・・・」

 

莉多子さんは意外と執念深い女なのかもしれない。

M田はぶるっと身震いした。

 

「カブさんの部屋に行った理由はわかりました。しかし、私は偶然見てしまったのです。あなたがハブさんの部屋に行った時、中にクス男さんがいましたよね?」

 

「ええ。ハブの部屋にクス男がいたので驚いたわ。クス男も気になって現場を調べていたみたい。そして、私に駆け引きを提案してきたの」

 

「駆け引き?」

 

「クス男は私の正体に気づいていた。事件の真犯人が誰か教えるから、代わりに自分のことを見逃すように言ってきたの。でも、その場で即答はできずに、ちょっと考えさせてと答えたの。そしたら、その直後にクス男は殺害されてしまった・・・」

 

翔子は悔しそうに口をかんだ。

 

なるほど、そういうことだったのか。

M田は状況を理解した。

だが、そうなると・・・真犯人は一体誰なのだ!?

 

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