ヘルズゲート国立公園 | Que sais-je? ク・セ・ジュ――われ何を知る

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エルサルバドルに単身赴任中。
気候がいいので日本よりよほど健康的な生活を送っています。
ドライブ旅行をぼちぼちしていますが、
この国で最も注意しなければならないのは交通事故。
今や治安以上に大きなリスクです。

なおヘッダーは2020年に新潟県長岡市にて撮影。

ナイバシャ湖は2日目の探索で大体のところを回り、かなりの数の野鳥を見ることもできたので、私はとりあえず満足しました。そこで3日目の午前中は、湖のすぐ近くにあるヘルズゲート国立公園 (Hell's Gate National Park) に行ってみることにしました。

この名前、ウィキペディアでは Hell's と単数所有格になっていますが、公式ホームページの方は、Hells と複数形になっています。語源的にはたぶん前者の所有格の方が正しいのでしょうね。

日本語に訳すと「地獄門」。地名の正確な由来は私には分かりませんが、下に書くように、ここは地熱活動が盛んで、大規模な温泉発電が行われています。スパもあるそうです。日本でも、温泉が湧くところに「地獄谷」なんていう名前が付いていることがよくありますから、つまりはそういう由来なのでしょう。熱湯がたくさん湧出(ゆうしゅつ)しており、それ自体は直接見ていませんが、実際に見たらさぞ地獄の様相をしているに違いありません。

この国立公園にもキリンや羚羊(れいよう)類など野生動物がたくさんいますが、メインの「売り」は、浸食によって形成された峡谷や断崖絶壁、尖峰といった興味深い地形の中や、サバンナの草原の中をハイキングしたりサイクリングしたりすることでしょう。

しかし私の最大の興味は、やはり野鳥です。なので自動車で移動しつつ、所々で車を停めて歩き、野鳥を観察するという、多くの観光客とは少々異なった動きをします。

入園料は居住者とケニア人は300シリング(1シリング=約1円)。それに自動車料金の300シリング。運転手を入れて計900シリングでした。

エルザ・ゲート (Elsa Gate) にて入園料を払っていざ出発という時、やや恰幅(かっぷく)のいい、迷彩服を着た女性レンジャーが、公園の反対側のオルカリア・ゲート (Ol Karia Gate) まで乗っけてもらえないか、と。

運転手のケヴィンが彼女と恐らくスワヒリ語で話をして、私にややたどたどしい英語で伝えます。私、「いいよ (No problem)」と。

私はマラウイで、何度も道端の警官を車に乗っけて彼らの目的地まで連れて行ってあげたことを思い出しました。マラウイの場合は、警察があまりに貧乏なので、警官を任務地に配置するための車を動かす燃料費さえ不足しているという事情があります。

しかしケニアはそこまで貧乏ではなさそうです。「ちょうど観光客の車があっちに向かうから、自分たちの車を手配するより手っ取り早い」程度の軽い考えだったのではないかと思います。いずれにしても、日本では考えられない事ですが。

その彼女、ちょうど都合のいい事に、ガイドをしてくれました。しかし私は彼女のガイドを素直に喜べません。今までのアフリカ諸国滞在・旅行の経験上、ガイド料とかチップを要求してくる可能性があったからです。他人のチャーターした車に乗っていても、そういうがめつい事をしかねないと、私は警戒したのでした。

ただ、彼女のガイドは、普段公園内を巡回している人だけあって、実に詳細・正確。しかも、公園管理の事情など、普通の観光ガイドでは語られないことまで解説してくれるのは、私にとっては実に嬉しいです。

このあたりで、国立公園の景色や見た動物たちの写真をお見せしていきましょう。

 

 

エルザ・ゲートから程なくすると、断崖絶壁の立ちはだかる所に。アメリカ中西部の荒野に来たかのような景色です。中央に立つ尖峰にはフィッシャーズ・タワー (Fischer's Tower) という名が付いています。

ただ、コース自体はご覧のように平坦で整備されている所が多いので、マウンテンバイクでサイクリングするのにも適しています。

 

 

フィッシャーズ・タワーはさほど高くないものの、近づいて見ると、鋭く屹立している感じが増してきます。

 

 

では動物を。これはグラントガゼル (Grant's Gazelle)。サバンナの景色にしっくりと来ます。

 

 

崖のすぐ下で草を食(は)むグラントガゼル。トムソンガゼルとの見分け方は、例えば尻尾の上の部分が白く横に切り込みの入っているところ。トムソンガゼルは白い部分が狭く、横方向の切れ込みもありません。

 

 

シマウマ (Zebra) もたくさんいます。

 

 

インパラ (Impala) の群れ。写っているのは角のないメスばかりのようですね。このように比較的大人しい草食動物ばかりなので、ハイキングができるわけです。

 

 

このような崖をロッククライミングする人もいるそうで。

 

 

キリン (Giraffe) も少数ながらいます。

 

 

この国立公園の最大の見ものである大峡谷、オル・ンジョロワ峡谷 (Ol Njorowa Gorge) です。下に降りて断崖に挟まれた川沿いの狭い道を歩くのが名物コースなのですが、数年前に遊歩道で転落死亡事故が起こったそうで、あいにく閉鎖されていました。しかし近いうちに再整備が完了して再開するであろうとのこと。

 

 

峡谷の上にはセントラル・タワー (Central Tower) なる尖峰が聳(そび)え立っています。

 

 

川まで下りることはできませんでしたが、上からでもこのように絶景を愉しむことができます。

 

 

でもこの辺りも歩いてみたかったところです。写真は上から見ることのできる部分であり、見えない所に、もっと狭くなっている箇所もあるみたいです。

 

 

そのビューポイントである場所に生えていた木にこんなコーヒーのような実が付いていて、私の目に留まりました。まあ、食用ではないんでしょうね。

ここには土産屋が何軒か店を広げていて、レンジャーの彼女、私たちの案内を一通り終わると、そこでずっと品定めしています。観光客でないのにこのような物を買うことに熱心なようです。土産物に全く興味のない私としては、車に戻ってしばらく彼女を待っていましたが、一向に動く気配がありません。そこで土産屋に戻って「私たちは先に進むが、あなたは留まるか」と彼女に聞くと、ようやくビーズの腕輪を手にして車に乗ってくれました。

その彼女に、「今、世界ではSDGsとか言うけれど、私としては、何が持続可能な開発なのか、何が自然を守ることなのかを考えるためにも、是非とも発電プラントを見てみたい」と言うと、「すぐそこよ」と。

果たしてすぐそこの道路脇にありました。

 

 

これは最初に建設された「オルカリア第1発電所 (Olkaria I Power Plant)」。煙突から盛んに蒸気が立ち上っています。……と言うのは正確ではないか。煙が出ているわけではないので煙突ではないですし(何と言うのでしょうね)、白く立ち上っているのは水蒸気ではなく、外気に冷されて液化した水ですから。

 

 

辺りは硫黄臭がします。青白いプールもあります。これは発電所の敷地内にあるので当然泳いだり浸かったりするためのプールではないのでしょうが(何のためのものだろう?)、近くには入浴用の温泉施設もあります。海水浴パンツなどそれなりの用意をしてこなかったので(日本の温泉と違って、裸で入ってはいけません!)、行きませんでしたが。

 

 

施設間を走るパイプ網。こんなのが国立公園の中にあるなんて、考えさせられるでしょ?

彼女、「こうして、金儲けが行われているわけよね」と。

なるほど、ケニアの一般の人々の間では、発電は公共的な事業というより、金儲けの手段と認識されているのか。

「電気って、高いわよね」。確かに高いです。私は月々の電気料を、大家さんとの取り決めで定額で支払っていますので、正確な料金は分かりませんが、確かに高いという印象ですし、大家さんもそう言っていました。

しかし市場主義経済ですから、高くても買う人がいるのであれば、高料金が維持されます。

従って、別の言い方をすれば、高い金を払ってまで電気を買いたい人がたくさんいるというわけで、ケニアはそれだけ経済発展が著しいということの証拠であるとも言えそうです。

とにかく、今のケニアで発電事業は儲かる。その象徴の一つがこの、国立公園内の温泉発電プラントである、と当地の人々に認識されているわけです。

さて、反対側の出口であるオルカリア・ゲートに着きました。チップを払うなら500シリングが相場かな、あるいは300くらいで許してもらえるか、はたまた安いと言われて1,000くらい払わなければならないか、と考えていたところ、彼女は「どうもありがとう」と言ってさっさと車を降りて行きました。

やはり、車に乗っけてあげたのでお礼にガイドをしてくれたというか、逆に私の立場からすると、ガイドをしてもらったチップ代わりが車に乗っけてあげたことである、ということのようでした。

ケヴィンとそのことを確認しつつ、「私がかつていたマラウイではそうではなかった。こういう場合は決まってチップを請求してくる。そうでなくとも、地方の路上などで警官に会うと、やれ喉が渇いただの、やれソーダが飲みたいだのと言ってくる(その分の金をくれということを暗示している)」と言うと、ケヴィン、「それはケニアでもある」と。

「まったく、アフリカの警官は腐っているよ」とのことで2人は同意するのでした。

しかし、今回のガイド、いやレンジャーはラッキーでした。こういう出会いが旅のセレンディピティ―(期待していなかった意外な発見)ですよ。

ツアーだったら絶対にないですよね?