つっつんライトニング軍曹のブログ -12ページ目

「 二人の距離? 」

放課後、学校の帰り道、朱里は最近呼んだ本の名前を言った。

「 そう、とっても面白い小説でね。今度映画化もされるんだよ?勇輝君もよかったら一緒に見に行かない? 」

「 映画か・・・、そう言えば最近見てなかったな 」

中学に入ってから、僕はあまり映画とかは見ていなかった。

見たくなかった訳じゃない。でも、そんな時間がいつの間にかなくなっていた。

「 良いよ、見に行こう。その映画、いつやるの? 」

「 明日からだよ。学校も午前中に終わるし、どうかな? 」

「 うん、じゃ学校帰りにそのまま行こう 」

僕は朱里と映画を見に行く約束をした。

初めて、だった。女の子と映画を見に行くなんて、今まで経験した事がない。

でも、どうしてだろう。緊張とかは全然しなかった。逆に、楽しみで仕方なかった。


続く

「 えぇっと、私の分かる範囲でなら、英語教えてあげるよ? 」

「 英語が苦手って、よく分かったね 」

「 だって昨日の英語の授業の時、勇輝君、先生の質問に答えられなかったでしょ? 」

そうだった。昨日、必ず一人は当てると英語の担当の先生は言った。

そしたら運悪く、僕は最初に当てられた。きっと、質問のレベルとしては簡単な所だったのだろう。でも、僕は中一の時から英語は苦手だった。

だからもちろん、答える事は出来ず、皆の前で恥をかいた。

「 受験科目に英語がなければ良いんだけどね 」

僕は苦笑いしながら朱里に言った。

すると、次の授業のチャイムが鳴った。

「 分かりやすく頑張って教えるから 」

朱里はそう言いながら、鞄から次の授業の教科書を出した。

僕も、そろそろ次の授業の支度をしよう。


続く

「 実は、そういうの考えた事ないんだ。良い高校に入っても、やりたい事もないし。大学も、その先の事も。夢は小説家だけど、それではなかなか生きて行けないってのは分かってる。進路を決める事も大切なのは分かってる。でも・・・・ 」

僕は窓の外に広がる街の風景を見つめる。

「 でも、そんな未来の事よりも、今この時を楽しんでいたいんだ 」

きっと、大きな世界から見れば、僕達の受験や、進路の事なんて、ちっぽけな出来事でしかないんだと思う。

それが、嫌で、そんなちっぽけな事をやるなんてバカバカしいくて。

いつからだろうか、受験と言う物から、目を背けるようになったのは。

「 そうなんだ。勇輝君って、何かファンタジーな人だなぁ 」

僕は朱里の方に目を向ける。彼女はこんなくだらない事を言っている僕を見ながら優しく微笑んでいた。彼女はよく微笑む。

その微笑みをみる度に、僕の中の何かが動く。

「 ねぇ、だったら一緒の高校受けない? 」

「 僕、そんなに勉強出来ないよ? 」

僕は少し恥ずかしそうに言った。

「 大丈夫だよ、私もそんなに勉強出来ないし。でも、一緒に頑張ろうよ 」

朱里の目は、どこにも迷いのない目だった。


続く

「 ありがと、勇輝君 」

「 い、いや!そんな事・・・ 」

朱里は普通の顔に戻り、普通のように微笑んで言った。

でも、僕は、まだ恥ずかしかった。

女子とは何度か話した事はあるけれど、名前で呼ばれた事も、呼んだ事も、今まで無かったからだ。そう言う所から、朱里はどこか、他の女子と変っていた。

「 そろそろ次の授業の支度しないとね 」

朱里はそう言いながら、僕の貸したノートを机の脇に掛けてある鞄に入れた。

「 ノートありがと、明日には返すね。あ、でも勇輝君も復習しないと・・・ 」

「 良いよ、家帰っても勉強なんてしないし。復習なんて、した事ないし 」

僕は笑いながら、少し不安そうな顔をしている朱里に言った。

「 でも、私達もう受験生だよ?勇輝君はどこの高校に行くの? 」

朱里は、心配そうな顔をして言った。


続く

「 平野は、将来の夢とかあるの? 」

僕は黒板に書いている文字をノートに写しながら朱里に聞いてみた。

「 うん、私は幼稚園の先生になりないの 」

「 へぇ、何か平野らしいね 」

僕は小さく笑いながら言った。

朱里は、どこか恥ずかしそうな顔をしていた。

「 そうかな、そう言ってくれたの、岡崎君が初めてだよ 」

「 そうなの?でも、平野って優しいしさ、幼稚園の先生とか似合ってるよ 」

本当に、僕はそう思っていた。朱里のような優しい子なら、先生に向いていると。

「 ありがと、そんなに言ってくれるなら、私頑張らないとな~ 」

優しく微笑む朱里の顔を見ながら、僕は笑った。

すると、授業終了のチャイムが校内に鳴り響いた。

「 では、今日はここまで。ちゃんと復習しておくように 」

そう言うと、先生は教室から出て行った。

「 あ、お喋りに夢中でノート書いてないや 」

朱里は何も書かれていない自分のノートを見ながらそう言った。

「 なんなら、見る?一応全部書いてあるけど 」

僕は鞄にしまいかけたノートを朱里に渡した。

すると朱里は、僕のノートの名前の部分をじっと見つめる。

「 どうかしか? 」

「 下の名前、勇輝って言うの? 」

朱里は僕にそう聞いてきた。

「 あれ、教えてなかったっけ 」

「 うん、初めて知ったよ 」

そういえば、そうだったかもしれない。

朱里が転校してきたばかりの時は、こんなに話せる仲じゃなかった。

でも、いつの間にかこんなに仲が良くなって、でも自分の名前を教えた事はなかった。

「 ねぇ、岡崎君 」

「 え、何? 」

朱里は少し顔を赤くしながら言った。 

「 あの・・・、よかったら勇輝君って、呼んでも、良いかな・・・ 」

そう言われた時、僕も朱里と同じ様に、顔が赤くなった。

「 その・・・、私の事も、朱里って呼んで良いから 」

「 うん・・・、良いよ 」

僕は真っ赤な顔でそう言った。すると、朱里も嬉しそうな顔をしてくれた。

教室は他の生徒達が騒いでいて、きっとうるさかっただろう。

でも、僕の耳には、そんな他の声は入ってきてはいなかった。

きっと、朱里にも、ただ、僕達二人だけの声しか。


続く