「乗せてってよ」
そう言ってドンヘは、へらりと笑った。
胸の奥の引っ掛かりを無視して、間髪いれずに答える。
「ああ、いいよ」
ドンヘは伊達眼鏡の向こうで、また笑った。
「ありがと」
駐車場へ向かう間、新しい曲の話を聞く。
シウォンは別の仕事でまたカムバックにいなくて。
ウニョクとふたりでの日本ツアーはまだ途中で。
ヘンリーはソロで見違えるほど成長して。
「放送見たよ。すごくよかった」
「ありがとう」
掌にするりとドンヘの手が滑り込んでくる。
握り返して様子を伺うと、少し顔を伏せて照れくさそうに見える。
自分からしてくるくせに。
俺の心臓が飛び跳ねたことには気付かないかな。
「次ヒョンと一緒に歌えるのはいつかなあ」
その言葉に思わず立ち止まる。
腕を引っ張られたドンヘも止まって振り返る。
伊達眼鏡の向こうで、しまった、という顔になる。
「いつだと思う」
尋ねれば、今度は泣きそうな顔をして。
止めろって、そんな顔。
抱いてやりたくなるから。
「すぐ。今すぐ」
俺は笑って、空いている方の手でドンヘを小突いた。
「カラオケにでも行くか」
ドンヘは笑顔になって、繋いだ手に力を込める。
「行く」
俺はドンヘの手を引いて歩き出す。
もちろん明日も仕事で。
というか今日も正直疲れていて。
何故か疲れを知らないこの男は、遠慮というものも知らない。
車に着くと、ドンヘは名残惜しそうに手を見つめた。
「ヒョン」
珍しく周りを伺って、俺の顔を見る。
「何?」
「好きだよ」
不意に重ねられた唇は、一瞬で離れて。
けれど、心臓はさっきの何倍も飛び跳ねる。
ドンヘは手を離し、俺が鍵を開けるのを待って助手席に乗り込む。
努めて平静を装って、エンジンをかけ、車を出した。
忘れてたけど、この男が苦手だった。
するりと滑り込んできて、胸の奥に容赦なく触れるから。
そしてそれを、笑顔一つで許してしまいたくなるから。
「なに歌おうかな」
早くも鼻歌を始めた横顔は相も変わらず楽しそうで。
視線に気付いて俺を見たドンヘは、またへらりと笑った。