【グランピング】グラマラス(魅惑的な)とキャンピングを掛け合わせた造語で、テント設営や食事の準備などの煩わしさから旅行者を解放した「良い所取りの自然体験」に与えられた名称。(一般社団法人 日本グランピング協会HP)
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グランピングという言葉を最初に知ったのは数年前だけれど、過去に2度、体験したことがある。
一度目は1993年に夫と、2度目は2006年に家族で旅行したケニアのマサイマラ国立保護区内で、まさに今で言うグランピングだった。
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子どもが生まれるまでは夫婦気ままにすごし、年に2回と決めて海外を旅行した。お金もあまりなかったのでどこでも行けるわけではなかったけれど、ケニアにはどうしても行きたいと意見が一致したのでボーナスをはたいてツアーに申し込んだ。
私の前世はアフリカ人だから↓。
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成田空港で集合してみると、ツアーは全部で10人だった。北海道から参加したおじさん3人組、私たち夫婦、あとは皆ひとりで参加した人たちだった。
当時はケニアのサファリツアーもそれほどメジャーじゃなかったので、私たち夫婦も含め、参加者は皆、愛すべき変人ばかりだった(笑)。
つかず離れずの関係が心地よくて、帰国後、東京組はサバンナの会と称して年に1回程度集まっていた。北海道にも遊びに行った。
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女性は私と、私より少し年下のヤマグチさんの2名だった。
ヤマグチさんは2度目のケニアで、10日間のツアーにラグビーボールぐらいのバック1つで参加していた。都市銀行に勤めていたヤマグチさんは、その後、東大卒の後輩から猛アプローチを受けて結婚した。付き合うまでの数ケ月、受け取るラブレターにことごとく赤ペンで校正を加えて返却したというツワモノだ。
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チーターが見たかった18歳のサカイくんは留学経験もあり英語が堪能だった。朝からフル回転で弾丸のようにしゃべりまくっていたが、眠くなるとパタっと無口になった。一度夕食に現れなかったことがあり、現地ガイドが部屋をのぞきにゆくと熟睡していた。きっと充電が切れてコンセントに刺さっていたに違いない。チーターを見たときはぐすんぐすんと泣いていた。ナマイキだったので旅行中はよく私に怒られたが今は結婚し、八丁堀で目分量というこだわりの詰まったダイニングバーを経営している。
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北海道組のひとり、ヨシタカさんは、かつて大手電機メーカーの社員として度々アフリカを訪れたことがあったようだ。気が付くとスワヒリ語しかしゃべれない現地の人とにこやかに談笑していたので素性がわかった。アフリカの大地のように大らかな人だった。
マサイ族の村を訪ねたとき、集落の長に結構な額のチップを要求された。牛糞と泥をこねて作った質素な住居を見ながら、あのお金は一体何に使われているんだろうと皆で首をひねった。ヨシタカさんが、裏にベンツが何台も停まっていたよと言うのでみんな本気にした。
トボけたヨシタカさんにまんまと担がれた。
ヨシタカさんは室蘭で、アサンテ(スワヒリ語でありがとうの意)というレストランを経営していた。サバンナの会で室蘭をたずねたとき、アサンテの繊細な料理に驚いた。
ヨシタカさんのお祖父さんは若い頃、牧場を開墾しようと土地を探して銀座にたどり着いた。どうやらここは牧場に適していないな、と判断し、北海道に渡ったのだそうだ。
皆で訪ねたご自宅の牧場は、敷地のど真ん中を高速道路の高架が走っていたが、まったく邪魔に感じないほど広大だった。
庭には大きな桜の木があって、死んだらその木の下に埋葬してもらうと笑っていた。
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グランピングの話に戻るとケニアのサファリツアーは夢のようだった。
野趣あふれる雰囲気を楽しめるよう個室は全てテント仕立てで、一歩中に入るとベッドも清潔なシャワールームも完備されていた。
夜にはライオンの、朝方にはゾウの咆哮が遠くに聞こえた。
明け方サファリに出発するとき空を見上げると、無数の流れ星が見えた。
子どもが生まれたらきっとまた来たいと思い、10数年後に夢を果たした。
最近は日本のあちこちにグランピングを楽しめる施設ができている。すごく興味があるのでサイトをチェックするけれど、一泊ひとり3万円以上するなど結構高額なものが多い。
千葉や埼玉のテントに泊まって3万円払うのだったら、もう一度ケニアに行ってもいいなあと思ったりしてしまう。
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サバンナの会の友人たちとはそれぞれが家庭を持ってからも家族ぐるみのお付き合いを続けていたが、夫の死を機に疎遠になってしまった。
皆本当に良い人たちで遠くからそっと気遣ってくださっていたのも知っていたけれど、どうしても会えなくなってしまった。
理由は自分でもよくわからなかった。
そうこうするうちヨシタカさんの年賀状の添え書きに珍しく元気がなかった。気になりながら、私は返信さえしなかった。
ほどなくサカイくん経由でヨシタカさんの訃報を知り、めちゃめちゃ後悔した。
ヨシタカさんは本当にあの桜の木の下にいるんだろうか。
(写真はタンザニアなんです)
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夫の葬儀のあとサバンナの会のイシカワさんから、温かい手紙とともに3枚のDVDが届いた。あのときのツアーを収めたものだった。
とても嬉しかったが、お礼も言えなかった。
そんな自責の念もあいまって今日まで見ることができなかったけれど、ブログに書いたことを機に勇気を出して大切に保管していたDVDを再生してみた。
イシカワさんの心づくしの編集が施されていた。
若く、懐かしい面々にぐっと来た。
みんな、心配かけてごめんね。
コロナが落ち着いたらきっと連絡を取ろうと思った。
サカイくんの店でDVDの上映会ができたら嬉しい。
全編6時間超だけれど!
2回目のケニアのはなしはこちらです↓