2022シーズンが終わった。
負け惜しみとか後出しジャンケンではなくて、敗けるだろうと思っていた。昨年の「勝てる」以外の結末が思い浮かばなかったのとまったく同じ感覚で、「負ける」と予想していた。厳密にいえば、「勝ってほしいけど、できないだろうな」。それが的中した。
何しろ年間143試合中130試合以上、TVや録画や現地でプレイボールからゲームセットまで見ているわけで、宮本さんや藤川球児みたいな難しいことはわかんないにしても、感覚的な勝敗の行方はなんとなく予想がつく。時々奇跡的な(壮真の3ラン引き分けとか)ことは起きるけど、「これは…」というのはたいていその通りになる。桑田真澄の言うとおり、野球は流れのスポーツだ。
8月以降、「リーグ優勝は厳しいだろうな」「CSは勝てないだろうな」と思っていて、でもなんとか切り抜けて、切り抜けて、なんとか持ちこたえて、「連覇は難しいだろうな」でとうとう着地してしまった。特に日本シリーズは今シーズンの凝縮版で、前半3戦と後半4戦はまるで別のチーム。昨年はどんなに土壇場でやらかして敗戦しようが「次は勝てる」と思ったし、実際そうなった。けど、今年はそれができなかった。後半4戦は金縛りにあったように身動きが取れていなかった。
シーズン終盤で上昇してきてシリーズを迎えたオリックスと、下降してきてシリーズを迎えたうちとでは、勢いや流れの圧がまったく違っていた。失投を見逃さずはじき返し、失策に乗じて溌剌と塁を駆け抜けるオリックス野手陣に、「それうちのやりたいことじゃん」とほぞをかむ思いがした。谷繁の言ってた通り、データが実践できたオリックス、データはあっても実践できなかったうち。スポーツ紙には、死闘、善戦、などと書いてあるが、うちの完敗だと思う。
昨年、四冠投手がいても日本一は難しいんだ、というのと同様、令和初の三冠王がいたって日本一にはなれないんである。
解説はこれから評論家がするだろうから、日本シリーズ素人目で、思ったこと2つ。
1つは、初戦のヒーローインタビュー。ある野手の饒舌な受け答えに「うん?」と思った。この「うん?」は、「こんなん言ってて大丈夫かいな」というヒヤリ、である。
大昔の日シリ舌禍事件を持ち出すまでもなく、プロ野球選手の「この野郎」「なめてんのか」「思い知らせてやる」は恐ろしい。試合途中でスター選手をひっこめたりすると、その試合をひっくり返すだけでなく、シーズンの順位までひっくり返すことになる。実際、こっちが「この野郎」と思って逆転勝ちしてきたし、相手に「この野郎」と思われてサヨナラ敗け、みたいな試合をいやってほど見た。「この野郎」はプロ野球選手の最も強力な勝利への原動力なんじゃなかろうか。
ヒーローインタビューは、相手の監督、選手、ファンも聞いている。聞きたくなくたって聞こえてくる。たかがファンだっていい気持ちはしないのに、監督・選手の「この野郎」「明日は見てろよ」「次はないからな」のエネルギーってそらもうすさまじいもんかと…。もともと本気の相手をさらに本気にさせたんじゃないか。
ヒヤリとさせたその軽口の野手、実はメンタルがもんのすごく弱い。お調子者は打たれ弱いの典型みたいな人で、致命的なエラーをやっちゃった後は守備も打席も記憶がすべてふっ飛ぶほど。それを知ってたからよけいそのハイぶりが二重の意味で「こいつ大丈夫かいな」だった。
もちろん、この野手ひとりが敗因だなんて思ってない。敗因はいろんなところにあった。負けには負けの理由がある。
けど、ポジティブなのと浮かれてるのを取り違えたりカン違いしたり絶対しない、いっさい混じり合わせないって、ほんとに難しい。これも敗けなければわからなかった。とある年の夏の高校野球、準優勝になったエースピッチャーが言っていた。「勝っているとわからないけど、負けてみたら甲子園はいいところでした」。
奇しくも最終戦、この選手が決定的な失策をし、今シーズン最後の打者になった。二回もやらかしたクローザーも心配だが、こいつのメンタルもほんと心配。オフ中は野球を離れて、優しいやわらかい会話をいっぱいして、手足を伸ばして休んでほしいなと思う。
2つめは、円陣。
第6戦は現地観戦だったのだが、オリックスの守備練習、円陣、声出しは、黒いユニフォームの背中という背中から湯気が立つほど高揚していた。うっかり手でも触れたら感電しそうな殺気がみなぎっていた。
片や、「えっ?」。
ベンチ前で見たうちの円陣の印象は「スカスカ」。
肩を組めとか手をつなげとかいってるのではない(オリックスだって互いの身体にはまったく触れてなかった)。なんていうのか、「スカスカ」としか言いようがないんだけれど、去年の日本シリーズとかリーグ優勝のときに見た円陣とは違っていた。ナンカチガウ、と思った。緊張感、集中力? 戦闘意欲?
慢心してたなんていうつもりはない。してもいなかっただろう。
監督も投手も野手も、必死でやっていた。なめてもいないし、甘く見てもいない。誰一人投げ出してはいなかったし、誰もあきらめてもいなかった。ヒリヒリするほど燃えたぎる執着はあった、けど勝てなかった。
高津監督の涙がつらかった。
絶不調のキャプテンを起用し続け、チャンスで三振する助っ人をかばい続け、何度もやらかすクローザーを信じ続け、不動の四番を鼓舞し続けた高津監督。胴上げに「泣いてません」と言い張っていた監督。勝って泣かせてあげたかった。
来年がある。
世代交代、20歳そこそこの若燕が今年はたくさん出てきた。
来年こそ、高津監督にもう一度日本一を。
いいシーズンをありがとう。楽しかった。
毎日毎日、ドキドキした。ワクワクした。
喜び、悔しがり、興奮した。