東京オペラプロデュース第82回定期~美しいパースの娘~その2 | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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~古ぼけた木の実 にぎりしめ~

昨日の日記からの続きです。こちらが具体的な 舞台の感想になります。

昨日(2008,7,12)
新国立劇場 中劇場で 
G.BIZET(ビゼー)作曲
オペラ『美しいパースの娘』(東京オペラプロデュース第82回定期)
を観てきました。


↑プログラムの表紙

スタッフ
指揮:松岡究
演出:八木清市
美術:土屋茂昭、松生ヒロコ
衣裳:清水崇子
照明:稲垣良治
舞台監督:佐川明紀
ヘア・メイク:星野安子
合唱指揮:伊佐地邦治
振付:伊藤範子
ほか

キャスト
キャサリン・グローヴァ:福田玲子
ヘンリー・スミス:塚田裕之
ロマの女王マブ:大隅智佳子
ロスシー公爵:松村英行
ラルフ:清水宏樹
サイモン・グローヴァ:大野隆
貴族:青地英幸
公爵家の家令:西垣俊紘
合唱:東京オペラ・プロデュース合唱団
オーケストラ:東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団 


で、その『変な』筋書きと曲について。

ひとことで言えば、村の鍛治師 スミス(塚田裕之:テノール)と恋人のキャサリン(福田玲子:ソプラノ)の恋物語。

まずは美しい前奏曲(ハープの音をPA通すのは良いですが、余りにでかいバランスっていうのは考えてほしい)から開始されました。

幕が開くと、鍛治屋の合唱。リズムの絡みが見事な素晴らしい曲。
鍛治師たちが引き上げたところに、公爵(松村英行:テノール)に襲われそうになって「逃げて隠れに」ロマ(ジプシー)のマブ(大隅智佳子:ソプラノ)がスミスの家に入ってくる。そこでマブの歌うエキゾチックなアリアが素敵でした。

そこに恋人キャサリンと、その父親と弟子のラルフ(清水浩樹:バリトン)が入って来る。するとスミスは一緒にいると疑われるといけないから と言ってマブを部屋に「隠す」。弟子のラルフはキャサリンが好きで、キャサリンとスミスが相思相愛なのを見てスミスに「詰め寄る」。「スミスとの結婚を喜ぶ」父親は、ラルフを引っ張って台所へ料理に。ラルフはなぜか2人の交際を知らない。お祝いに来ているのに。

続く、残った2人が愛を歌う場面は素晴らしい音楽。

そこへ例の公爵が、キャサリンの後をつけて家に入って来る。そしてキャサリンに執拗に言い寄る。頭にきたスミスは刃物で公爵に… という寸前に 陰に隠れていたマブが「飛び出して」「争いを止める」。 公爵は襲われた相手なのに出て来るか?
マブを襲った公爵が、続いて見掛けた女性を追いかけて家に来る公爵って 何者? それもキャサリンは父親とラルフと3人で一緒に家にきたのに、そこに来るか…

以上が第1幕。
この様な変な筋書き。このあとも、特に最終4幕になると矛盾だらけなゴチャゴチャさ… お手上げになります。

第2幕以下は簡略に

第2幕はオーケストラ組曲の3曲が選ばれたところ。
ハイライトは後半、スミスがキャサリンの家の前で愛を歌、2曲のセレナード。最初が『小さな木の実』  続いてのオーケストラ組曲の「セレナード」として入っている曲。ところが今回の公演ではそれをカット。 めちゃめちゃ残念。しかし 舞台を見たうえでは、セレナードが2曲も出てくるのは、舞台進行が遅れ、しつこくなるだけ。カットも納得。
最後は見事なラルフの酔っ払いの歌で、締めくくる。

第3幕は公爵宅に、キャサリンと偽って仮面をしてマブが行く。公爵がキャサリンと思ってマブを口説く場面の二重唱が、あの アルルの女で有名なメヌエット。フルートとハープ(PAでかい)の伴奏に乗って美しく歌われました。

第4幕冒頭、恋敵のはずのラルフが「キャサリンは公爵の家に行ってない」とスミスに言い、仲直りを薦めると「そんなことを言うなら決闘だ」となる。スミスの行動が意味不明。そこの決闘の合唱はフランス革命のメユールの「出発の歌」の模倣。しかし今回の解説には書いてなかった。オペラ研究家はオペラどうしの関係にはくわしいけれど、同時代の他の分野についてはハードルが高そう。ここの音楽の引用は、なかなかユニークに仕上がっているで、言及して欲しかった。ところが 突然、決闘はあとでとなる。
その後、マブの変装をキャサリンと疑ってやまないスミスが、密会を疑いながらも、キャサリンとお互いに愛を語る(これまた美しい二重唱です)。
そしてスミスは死の決闘に向かう。キャサリンは不実を疑われ、愛するスミスが死んでしまうことへの苦しみで、狂乱してしまう。そこで歌うバラード(お決まりの狂乱の場。澄んだソプラノの高音に、ハープとオーボエが絡み、あまりに美しいこのオペラの白眉)は、もっと演奏されて良い曲。
そして、なぜか狂乱の場にスミスが戻ってくると、キャサリンは落ち着き、仲直りしてめでたしめでたし。

…どうみても筋書き変。実は他にも変なところがありますが、まぁ オペラの筋書きはどれも変ですが、これはあまりにブっ飛んでました。


変なストーリーにもかかわらず、素晴らしい25曲が2時間30分にちりばめられていました。

舞台は単純なしかけでしたが、大掛かりなもの。照明もバックから照らしたり、効果的に使い、組み合わせていました。

昨日の公演は、マブとラルフが好演。
キャサリンも技術的には大拍手なのですが、声質がどうにも合わない。鼻に掛かった甘ったるい声(ヒルデ ギューデンみたいな私の好きな声質ですがこの配役では)。はっきり言って(特に重唱で)気になりました。しかし 歌唱力ではズバ抜けてました。上手かったです。
高音が続くテノール陣は、後半息切れ。声のかすれと音の不安定さが微妙。若手なのでこれからを期待したいです。

本当に大変な台本のオペラを公演してくれたことに感謝です。
指揮者の松岡 究さんは、自身のHPで このような美しい曲が今まで埋もれていたことに驚いたと書いていました。