現在、NIPTは、認可施設、無認可施設で行われています。認可施設は、日本産科婦人科学会の規制内での検査施設、無認可施設はそれ以外の施設です。

認可のNIPT施設は、良くも悪くも原則として30分以上のカウンセリング、施設側にも様々な制約が課され、ハードルは高い上、検査項目や検査施設も限られますが(基本的には13、18、21トリソミーのみ検査可能)、結果説明は対面で行われ、十分な知識を有する専門スタッフによるカウンセリングが保証しています。

無認可施設の開設者は、そもそも産婦人科医や小児科医ではないことが大半です。つまり産婦人科や新生児関連の学会に所属していないので、規制を受けません。中には産婦人科医が常勤もしくは非常勤で勤務する施設もありますが、エコーは標準サービスではなく、特に相談もありません。NIPTそのものは採血するだけであり、産婦人科医でなければならない法的規制は一切ありませんので、どのような医師がNIPTの検査業務を行っていても法的問題は何もありません。

無認可施設では、13、18、21以外の驚くほど詳細の染色体異常や性別判定までできます。より詳しい検査をすることができるのはよいのですが、異常判定だったとしても実際には生きていく上で何の問題もないようなもの(知らなくてもよいもの)まで分かってしまうこともあります。にもかかわらず、結果は通常はWEBあるいはメール、もしくは郵送が一般的で、たとえ陽性でも、まずはそれらの方法で結果を知ることになります。その上で、自発的な希望があれば、結果説明を医師あるいはカウンセラーから有料で聞くことはできますが、とりあえず自宅で結果を知った妊婦は、まずネットで検索、そして周囲と相談することになりますので、適切な理解ができるとは限りません。

母体血清マーカー検査は、「ダウン症である可能性がこのくらいです」というような形で出ますので、検査結果を真に受けることはあまりありません。しかし、NIPTの決定的な問題点は、NIPTの結果は、「陽性(21トリソミー)」「陰性」という形ではっきり出てしまい、ただし、その結果が100%正しいわけではない、というスタイルであることです。

陽性だった場合の偽陽性の問題点については前編で記載しましたが、陰性的中率が100%でないことも、目立たないが大きな問題です。NIPTの陰性的中率は20代だと99.99%程度、40代だと99.9%程度です。ほとんど100%じゃん、と思うかも知れませんが、99.99%だと1万人に1人なのでともかくとしても、99.9%では1000人に1人は「陰性」判定だったのに染色体異常があることになります。1000人に1人というのは決して無視できない数字です。実際に、NIPTでは陰性だったのに、、、、というケースは存在し、実際問題となっています。検査会社によっても精度は異なるようですので注意が必要です。

こうしたことを無認可施設で時間を説明されることは、ほぼありません。産婦人科専門医の立場とすれば、認可施設での採血を推奨することになります。しかし、厳しすぎる条件をつけて結果的に施設を絞り過ぎた結果、キャパオーバーとなり情報発信の必要性が乏しくなり、予約を集める努力が必要ない認可施設による詳しいホームページは残念ながら充実しているとは言い難く、実際、無認可施設のほうが、安く、プランも豊富で、きれいなホームページ、アクセスのよい場所、結果はWEBかメールで分かる等、ユーザーフレンドリーであり、様々な面で無認可施設での検査に魅力を感じる方が多いのは無理もありません。認可施設だけでは賄いきれない検査希望件数になってきたことに加えて、こうした部分の訴求力に差が出てしまった結果、他科医師による、「ただ検査して終わり」に近い無認可施設はどんどん増加し、事実上野放しになっているのが現状です。認可施設自体とそこで検査を受ける妊婦にとってはよいかも知れませんが、勝手に無認可施設で検査を受ける妊婦のことなど知らんと言わんばかりの、今の認可制度がうまくいっているとは到底言えません。もちろん、日本産科婦人科学会としても、これでいいとは思っていないでしょうし、困っていることと思いますが、学会は認可施設の様々な部分をもっと充実させ、魅力を向上させるとともに、無認可施設にも歩み寄るなり、飲みやすい条件で準認可的な形で最低限の協力を求めるとか、最初は参加件数少なくても認可・無認可合同で研究会するとか、色々やりようはあると思うのですが、そうした話が進んでいるという話は全くなく、こうした混とんとした状況が解決する目途は立っていません。

無認可施設で検査しても結果を産婦人科医に相談してくれればよいのですが、妊婦が無認可施設で検査を受けることを後ろめたく思っていたり、あるいは産婦人科医が無認可施設でNIPTを受けることを良く思っていなかったりするとどこにも相談する先がなくなり、ネットで相談したりして、適切な解答が返ってくるならよいですが、そうとも限らない、そんなこともあります。つい先日まで通っていた産科を忽然と来なくなり、電話をしても出ない、連絡も取れない、という方の中には、ひっそりとNIPTを受け、他院で人工妊娠中絶を選んだ方もおられるはずです。


ではどうしたらよいでしょうか。結果が100%でなければ許容できない場合は、NIPTは受けず最初から羊水検査を選択するのも1つです。大体問題なければそれでよい、という場合は、35歳未満なら陰性の場合は一応信じてよいですが、35歳以上の場合はNIPTだけで安心せず、胎児ドック等を受診して胎児の異常がないか合わせて確認すると精度が向上します。陽性の場合は必ず羊水検査を受けましょう。困ったことがあればとりあえず産婦人科医に相談、中にはいろいろな産婦人科医もいますので、もし相談しても話にならなそうなら胎児ドックの施設で相談するのがお勧めです(敢えて施設の紹介はしませんが、胎児ドック、胎児検査、胎児診断等で検索して、上から10個くらい見れば、それらしいところは大体入っています)



筆者が毎朝、自宅を出て道路を歩くと、中学か高校生くらいの年の男の子とそのお母さんをよく見かけます。施設の名前がついたバスに乗り込んでおり、特有の顔貌からもダウン症候群か類似の障がいをお持ちの男の子のようです。彼は、本当にお母さんが大好きのようで、一緒に歩いている時も幸せそう、バスに乗り込んだあと、いつまでもニコニコと手を振っています。お母さんも大変そうではありますがニコニコしています。もちろん、朝の一場面だけを見て「幸せそうな親子ですね」などと書くのはかなり無責任なことだということは理解しています。でも。地下鉄で険しい顔して眠そうにしているサラリーマンよりよっぽど幸せそうにも見えてなりません。

彼は、生まれてくるべきではなかったのでしょうか。いいえ、少なくとも私は、与えられた「いのち」を精一杯生きている姿に、毎朝勇気づけられます。母を思う気持ちが垣間見えることもあって、かっこいいなと思うこともあります。でも、家族には、我々の想像はるかに超える苦労、言えないようなこと、星の数ほどあることでしょう。様々な葛藤や色々な思いと戦いながらの今までだったと思います。朝、笑顔の親子に出会うたびに様々なことを考えさせられます。

 

 

NIPTや着床前診断、出生前診断の話をすると、ことあるごとに「命の選別は・・・」なんて軽々しく言う人がいますが、こうした色々なこと知って、様々な現場見て、当事者の話を聞くなりして、自分で色々考えて考えて、それから言えよと思います。私もそこまではできていませんが、そんなに簡単な問題ではないです。

 

障がいを持つ子の親の言葉として時々紹介されるのが、「自分が死ぬまでこの子の面倒を見なければならないのがつらいのではない、自分が死んだらこの子の面倒を見る人が誰もいないことが一番つらい」ということです。コメントはしませんが、非常に考えさせられる言葉です。


さて、というわけで、6夜にわたって、出生前診断についてお話してきました。場合によっては不快な内容があった方もおられると思いますが、こうした内容を当たり障りなく書くと何も伝わらなくなってしまいます。少し重かった、あるいは、そんなことまで知りたくなかった、という方もおられるかも知れません。

 

しかし、世にこれだけ普及したNIPTについて一般向けに、その背景や問題点について解説したサイトがほとんどないことから一念発起し、時間をかけて解説したことをご理解いただけますと幸いです。

 

皆様が少しでも色々なことを考えるきっかけになれば幸いです。長編シリーズを読んで、色々感じたよ、面白かったよ、勉強になったよ、という方、ぜひフォローと応援の「いいね」をよろしくお願いします!

 

産婦人科の先生方も多数お読みいただいていると思いますが、知識の整理と色々考えるきっかけにしていただければ幸甚でございます(本当はこの程度の内容で勉強になっちゃだめなんですが、実際には日々触れていないと忘れがちな分野だと思います)。内容もりだくさんなので、もし、何か誤り等お気づきの点がございましたら、こっそり教えてくださいませ。

 

出生前診断【1】はじめに

出生前診断【2】染色体異常とは
出生前診断【3】各検査の特徴「上」
出生前診断【4】各検査の特徴「下」 NIPT
出生前診断【5】NIPTと影

出生前診断【6】さいごに

 

松林ブログ

☆母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査について