NIPT登場後、NIPTは、「採血だけで分かる」「お腹に針刺したりしない」「赤ちゃんにもリスクがない」「精度が高い」ということで、大きく話題になりました。

では、NIPTの実際の流れはどういったものなのでしょうか。

 

NIPTを受けるきっかけは様々ですが、ご夫婦の希望で自発的に受ける場合と、他の出生前診断(母体血清マーカー検査やコンバインド検査、超音波検査等)で異常があったり年齢が高い等、検査を受ける理由付けが高いと思われる場合があります。

NIPTは妊娠9~10週くらいから受けることもできますが、精度の点や、検査を受けてもその後流産する可能性を考え、11~12週くらいまで待って採血する施設が多いようです。検査結果は通常2週間程度で分かりますが、無認可施設の中には大幅に早い(数日等)施設もあるようですが、検査施設によって精度にバラツキがあるのではないかという意見もあるようです。


では、もし陽性の場合はどうすればよいでしょうか。検査の目的にもよりますが、いずれにしてもこの検査は、「確定検査」ではなく、陽性的中率は約85~95%ですので、実際には陰性である可能性がある以上、本来であれば羊水検査を受けることになります。羊水検査の実施は通常妊娠15~16週ごろまで待つ必要がある上、結果は3週間前後かかり、その頃には妊娠18~20週になっています。そこでも陽性で、やむを得ず人工妊娠中絶を選ぶご夫婦もおられますが、その場合は妊娠21週6日がデッドラインになります。

 

NIPTで検査陽性、羊水検査で陰性の場合は、もちろん最終結果は安堵するものではありますが、NIPTの結果が出てから羊水検査の結果が最終的に判明するまでに約1か月半の間、赤ちゃんにどういう気持ちで接すればよいのか、妊娠の事実をどこまで言うのか、その他、複雑な思いをかかえたまま過ごす1か月半の妊娠期間は察するに余りあります。NIPTの採血を受けてからの時間は非常に長く、確定診断が出てからの時間は非常に短いのです。

 

こうしたことから、NIPTで陽性の結果が陽性となった時点で、羊水検査の結果まで待てないと考え、事実上NIPTの結果を最終診断ということにするご夫婦もおられます。また、特に無認可の施設では陽性的中率の低さについて十分説明していないと思われる施設も少なくなく、それがこうした傾向を助長している可能性があります。最近では以前に比べれば体制も整いつつあるようですが、以前は、無認可施設でNIPTを受けた妊婦から相談を受ける立場の医師らの話では、説明不足なんてものではなく、本当にただ検査して終わりであとは自分で何とかしろ、というような酷い施設も少なくなかったようです。


また、13、18、21トリソミーだと分かったらあきらめる妊婦さんだけではなく、そうであっても産んで育てたいと思う妊婦さんの存在も忘れてはなりません。NIPTは、何かあった時の覚悟のために受けるというご夫婦もおられます。しかしだからこそ、結果は陽性だったが本人は産んて頑張って育てるつもりだったのに、周囲の猛反対に合ったり、その時点で夫婦で全く考え方が噛み合わなくなったりすることもあります。羊水検査で診断が確定してからのことであればまだしも、NIPTの結果が陽性だというだけでは偽陽性の可能性もあるにもかかわらず、家族間で感情的な対立が起こることは十分あり得ることであり、とても悲劇的なことです。調べなければよかった、と思うご夫婦もおられるのです。決して煽るわけではありませんが、出生前診断は、陰性ならよいのですが、陽性となった場合、それが仮に偽陽性であったとしても、本人が出産したいと考えている場合でさえも、極めてデリケートで個別的で、知識面のみならず精神面のフォローが必要な検査ではないかということはお察しいただけると思います。


このシリーズではNIPTや出生前診断に対する賛否、あるいは筆者の意見は書きません。出生前診断をすること自体も推奨も否定もいたしません。ご夫婦で相談して決めるべきものだと思います。しかし、相談するためには、その材料、知識なり判断基準が必要なのですが、表面的な情報はないわけではないのですが、デリケートすぎる内容であることからか、生殖医療とは直接関係がないと判断するからか、不妊治療を受けるご夫婦がNIPTを受ける可能性は、一般集団よりも高いと思われるのにもかかわらず、生殖医療を行う施設からこうした情報発信はほとんどありません。

 

一方、NIPTに対する誤解や無理解は多く、実際に外来でも質問や相談が多く、ご夫婦で決めるといっても情報が必要であり、現在は現場の医師が個別に相談に乗っているのが現状であり、客観的な情報を発信することが必要だと考えております。

 

 

できるだけ客観的な情報発信をとの考えから直接的な表現はできるだけ避け、これでもかなり抑制的な内容にしましたが、それでも、それでも色々とお感じになる内容だったと思います。ご不快に感じられる方がおられましたら申し訳ございません。しかし、ある程度は書かないと何も分かりませんので、推敲を重ねて本稿となりました(そのために少しお時間を要しました)ことを、ご理解いただければと思います。

 

有名な「コウノドリ」というドラマでは、このブログ以上に出生前診断の闇に切り込んでいましたね。一歩間違えば大炎上間違いなしのテーマに、ゴールデンタイムであそこまで切り込み、高い評価を得たことはすごいことだと思います(医療ドラマはたいていツッコミどころ満載なのですが、あのドラマは、どの話も、産婦人科医の目線から見ても本当にリアルであり、内容も秀逸としか言いようがない名作中の名作です。名だたる周産期科、新生児科の医師の全面的で献身的な協力はもとより、本物のNICUやトリソミー児や家族までもが協力した超貴重ドラマです。見たことがない方は、ぜひご覧ください。) 四宮先生のメガネのモデルを調べてしばらく同じメガネをしていたのに誰にも気づかれなかったのは内緒です。

 

 

いずれにしても、単なる検査というだけでなく、こうした様々な倫理的で内面的で個別的な側面のあるNIPTについて、日本産科婦人科学会が、遺伝カウンセラーを配置して一定時間かけてカウンセリングすることを義務付けたり、検査後のフォローアップ等様々な制約を課し、それを満たした施設(認可施設)でだけ検査を受けるようにしようとしたことには、こうした背景があるのです。