今日は、主に採卵の周期の1周期前(卵巣刺激開始前)(以下、前周期)には何が一番よいのかについてお話したいと思います。

前周期に薬剤を使うかどうかは、各個人の体質に合わせながら計画するクリニックは少数派で、多くのクリニックではクリニックの基本方針によって決まっており、個人の体質で使ったり使わなかったりというよりも、前周期をどうするのかについての基本方針がクリニックごとにあり、それに沿って診療が行われることが多いです。それ自体は特に問題があることではありません。なぜなら、卵巣機能や月経周期が正常で特に問題がない例においては、前周期にピルやカウフマンを行っても行わなくても、成績に決定的な差はないからです。

前周期にピルを内服するのは、今から二十数年前、ロング法が全盛期だった頃に話はさかのぼります。ロング法において排卵後約1週間後からGn-RHアゴニストの点鼻薬を使用するということにおいて、前周期に妊娠が成立してしまっている状態で点鼻薬を使用するとうまくないということと、いつが排卵後1週間後なのか分かりにくいという2つの問題点を、前周期の月経中からピルを内服すれば、前周期に妊娠成立する可能性はほとんどなくなり、また、ピル内服終了約1週間前から点鼻薬を開始すればよく、ロング法と前周期ピル内服をセットにすることは、医療サイドにとっても患者サイドにとっても分かりやすく安全であるなどメリットが大きかったのです。また、卵胞の大きさを揃えるということにメリットを見出す場合もありました。

また、採卵が今よりも大がかりで1日にたくさんできるわけではなかったり、毎日採卵できるわけではない施設も少なくなく、前周期にピルを内服することで採卵周期の月経開始日を調整、つまり採卵日をある程度コントロールできるという点も、お互いにとってメリットでした。

しかし、アンタゴニスト法が主流となると採卵の直前で妊娠が成立しても何ら問題はなく、採卵の日程調節性をさておけば、前周期にピルを内服するメリットはなくなり、むしろピル内服直後の周期の月経中のFSHが高かったり、月経中の小卵胞数や実際の採卵数が減ることもあり、デメリットが出る場合も出てきました。また、実際に卵胞の大きさを揃えれば成績は向上するのか、という話もあり、卵胞の大きさがバラバラでもきちんと結果が出ることも少なくありません。逆に、前周期にピルを内服すると1採卵あたりの累積出産率が有意に減少するとの報告もあります。こういったことから、前周期のピル内服やカウフマンについては、少なくともメリットがある方はかなり限定的で、当院の基本方針としてはアンタゴニスト法の場合の前周期は薬剤なしで行っています。

 

考えてみれば、ランダムスタート法の考え方では、月経3日目からでも、10日目からでも、15日目からでも、20日目からでも、25日目からでも、いつから排卵誘発を始めても卵子の質も数も変わらないわけですから、月経中スタートの場合に限っては前周期に何かした方がよい、というのも変な話です。基本は前周期は何もしなくてよいと考えます。

 

 

では、月経中の高FSH、あるいは高E2(=cyst形成、俗にいう遺残卵胞)が起こりやすい場合はどうしたらよいかといえば、排卵を確認し、排卵後からピルではなくエストロゲン製剤単独を内服するのがお勧めです(luteal E2)。月経中の高FSH、あるいは高E2(いわゆる遺残卵胞)が起こるストーリーは、卵巣機能低下によりいい排卵が起こらない→排卵後に黄体期不全となりPだけでなくE2が十分分泌されない→排卵後に低E2であることに対してまだ月経が来ていないのにFSHが上昇し始めてしまう、さらに場合によってはこの高FSHにより排卵誘発されてしまい月経が来る前から卵胞が育ってしまうと、月経中に高E2(cyst形成)が起こってしまうのです。これを遺残卵胞と呼ぶかどうかですが、残っているわけではなく、直前の周期の黄体期から新規に育ったわけで、「遺残」という言葉はそぐわないため、私個人としては遺残卵胞という言葉は正確性に欠くと考えています(遺残卵胞についての解説記事はこちら:「遺残卵胞」遺残卵胞2」)。直前の周期の排卵後の低E2が原因であれば、それだけ補うことも可能で、実際に排卵後からE2のみ補充すると、月経中のFSH値は正常になり、cyst形成も予防することができます。E2製剤を内服していますから、外因性のE2は検査結果に反映してしましますが、内服終了すればすぐに下がるため、外因性E2の分だけ差し引いて判断すれば、たいていの場合E2も正常です。この方法だと、FSH上昇や卵胞数減少等のデメリットが生じることはまずありません。

 

カウフマン療法も何周期も行えばホルモン値は整うこともありますが、状況が改善する保証はなく、場合によっては卵胞数減少が起こるかもしれないことから考えると、ただでさえ時間が差し迫っている中、自然妊娠の可能性すらない状況で何か月にもわたって薬を飲み続けるメリットがデメリットを上回るとまでは言えません。ただし、何か月にもわたって消えない頑固なcyst(嚢腫)に対してはピルを強力に内服したり2周期程度薬剤多めにカウフマン療法したりすると頑固なcyst(嚢腫)たちが消えてくれることもあります。

 

というわけで、今日は、月経前の調整はE2製剤かピルかカウフマンか、それとも何もなしか、についてお話いたしました。次回もお楽しみに!

 

 

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