みなさん、こんばんは。
昨日の続編は置いておくとして、今日は、ちょっと前に騒然とした、「日本は体外受精の実施件数は世界一なのに出産率は世界最下位」なる発表?報道?についてお話ししてみたいと思います。
そもそも、このセンセーショナルな見出しを見たら、「なんかおかしいな、変だな、裏がありそうだな」と思う直観が大切です。世界一やってて、成績世界最下位とか、どんだけヘタクソなんだろうか、日本の医師はそれを知っていたとしたら甘んじて漫然と医療を提供しているのだろうか、どういうカラクリでそんな報道が出てくるんだろう、と思わなければなりません。
「統計」は世の中にたくさん溢れていますが、真に受けたら危ない情報がいっぱい溢れています。例えば、宝くじ。晴れの日に買って一等賞が当たる人は、雨の日に買って一等賞にあたる人の2倍いるってご存知ですか?・・・そりゃそうです。何しろ、東京都では晴れの日は雨の日の2倍なんですから。これは分かりやすすぎる例ですが、事実と言えば事実だが真実を正確に表現しているとはお世辞にも言い難い自称統計に騙されてはいけません。
本題の、「体外受精の実施件数は世界一なのに出産率は世界最下位」、これは、体外受精の実施件数=採卵件数であり、1採卵あたりの妊娠数を比べたものです。そもそも日本の体外受精実施年齢が他国と比べて明らかに高い上、他国では刺激周期がかなりの割合を占めている反面、日本では自然周期・低刺激系のクリニックが採卵をたくさん行っており、結果として採卵数・凍結数も少ない。移植個数も、だいぶ差は少なくなってきたが、まだ他国では複数が中心、日本では1つが多い。その是非はともかく、平均年齢が若く、1採卵あたりの平均採卵数・凍結数が多く、しかも複数個移植する他国と、平均年齢が高く、1採卵あたりの平均採卵数・凍結数が少なく、他国に比べて1個移植の割合が高い日本を、1採卵あたりの出産率で比べれば、妊娠率はもちろん流産もあるから、出産率なんて日本は比べるまでもなく不利に決まってる。それは、そういう切り口で算出した一事実ではあるだろうけど、真実を正しく伝えようなんていう意図は微塵も感じられない。「事実」は常に「真実」とは限りません。これは日本と他国では治療のスタイルが違うからそういう統計になっちゃうよね、統計って難しいね、と解釈するのが正しい理解なわけです。最下位などと煽るのはアンフェアそのものであると思います。
本来であれば、胚移植1回あたりの妊娠率を比較したり、年齢条件や移植個数をそろえて比較するとか、(例えば平均年齢が同じになるようにしたうえで良好胚1個移植に限定して比較するとか)、そういう比較をしなければ本来的な意味合いでの比較にはならないし、そうすればまた違った結果になることでしょう。どうしても採卵あたりの妊娠率のデータを出したいのであれば、日本特有の事情についての理解や解説を加えた上で、データから受ける印象は実態に即していない可能性が高いと一言添えなければならないところですが、それじゃあ面白くないので、表題のようなセンセーショナルな書き方になってしまうわけです。
一応念を押しておくが、それが事実でないとか嘘だとか言っているわけではなく、統計データの解釈は、その統計を出した人の特別な意図に巻き込まれることなく、真実を正しく理解しようとすることが大切です、ということです。
ということで、今日は統計って難しいですね、というお話しでした。次回もお楽しみに!
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