情報化社会となり、生殖医療の分野に限っても色々な医師や施設が色々なブログで論文紹介をしている。どのくらいのブログをフォローされているかは人によると思うが、色々なブログを読むと、同じ論文でも読み方・捉え方や解説の表現が微妙に異なったり、また、同じテーマを書いていても拾ってくる論文が違ったり、論文を読むというのは難しいなと思い始めた方も少なくないかもしれない。
語弊を恐れずに書けば、論文や学会発表など食べログのクチコミのようなものである。論文は審査があるので、実際にはもう少しは信頼性が高いが、審査の精度も様々であるし、学会発表は、よほど著明な国際学会以外は審査が緩く、ある程度書きたいことが書けてしまう。
例えば食べログでは、あるレストランが4.2だったとして、「濃厚な味わいで美味しかったです」「雰囲気もよく店員さんも親切でした」というものもあれば、「塩辛くて食べられたものではない」「悪くはないが味の割に高い」など色々な人が色々なことを書いて、でもある程度クチコミがそろってくると、ざっと共通の意見、「まあこんなものなんだろう」という評価というのは総論的にまとまってくる。4.2のレストランは悪口も多少はあるだろうが一応いいレストランなんだろうし、2.8にもファンもいいクチコミもあるだろうが総論的には今一つということになる。レビューワーの中にも、信頼できるレビューワーと、今一つ信頼できないレビューワーが存在する。
論文でも1つの治療法について、色々な人が色々なことを書いている。中には、結論ありきで主観に満ちたの学会発表もあるかも知れないし、公正な素晴らしい論文もあるだろう。「誰が書いた論文か」というのも大事だし、賛成派の論文、反対派の論文、中立な論文もある。クチコミが日々増えるのと同様、論文も日々色々なものが発表されるが、新しいからいい論文とも限らない。
新しいレストランが開店すれば最初の1個2個のクチコミを参考にするしかないわけで、論文も、あるテーマの最初の1編、2編の論文は非常に重要なものになるし、注目を浴びる。一方で、開店してある程度たったレストランの場合、数あるクチコミの1つか2つを読んだところで、もちろんそれは一定の事実であり、一定の貴重性はあるものの、全体像を踏まえた真実にどこまで迫れているかは微妙であるのと同様、ある程度歴史のある検査や治療方法について論文が1つか2つ発表されたところで、一定の貴重性はあるものの、やはり過去の同様の論文や学会発表、その論文が発表された背景や著者などを総合的に判断して、その論文ってどのくらい信用に値するのかな、と考えることも時には重要である。
例えば、移植でホルモン補充周期、自然排卵周期のどちらがよいかなんていうのは、もう星の数ほどの論文や学会発表があり、あっちのがいい、こっちのがいいと色々な人が色々なことを言っているわけで、新しい論文が1つ出たところで、1つレストランのクチコミが増えた程度のインパクトしかないのだが、ただし、その新しい論文が過去にない視点を持ったものだったり、独創的な研究方法だったり、あるいは過去のあらゆるデータを総評的に考慮したものだったり、あるいは研究対象の症例数が比べ物にならないほど多いとか、今までとは違う何かを持っていれば、注目に値するのである。つまり、論文を読むためには、その論文が発表された時代背景とか、同様のテーマで発表された過去の論文や学会発表を踏まえて、その論文を解釈していくと、より興味深く読むこともできるし、真実に迫ることもできる。
少なくとも、たった1つ2つの論文だけを根拠に、「このように言われているのでこれが正しい」と主張するのは、場合によっては正確性に欠ける可能性があるので注意が必要である(もちろん、たった1つ2つの論文でも正確性が高く世界的に認められているものもあり、それを否定するものではない)。
もちろん読む側の主観も大切である。解説者によって解釈も異なることもあるし、解説も微妙に異なっている。当然解説者の主観も入るから、そこにも注意が必要である。こういった視点で色々なブログを読んでみると、また興味深いかも知れない。
ということで、今日は、論文の読み方について書いてみました。次回もお楽しみに!