ひより軒・恋愛茶漬け -4ページ目

不動

あなたが ここに

目の前にいるなら

わたしは

いつまででも見ていられる。


シャツをたたむ姿も

髪をととのえる姿も


それが

わたしのもとから

出て行くあなたの

姿だったとしても


だまって

何時間でも

みつめられる。


はやい鼓動みたいな

靴の音。


蹴られたら

痛そうなつま先の形。


わたしなんか

見えないみたいに

わたしなんか

いないみたいに


裸足に靴を履いて

部屋の中を

行き来するあなたを


ベッドの端に

ひざをそろえて

シーツを巻いた

裸のままで


静かに微笑んで

待っているみたいに。


所有を

望むなんて罪の

ためいきと

舌打ちの罰を。


ただ眺めたいだけ。


美しさを

目に焼き付けたい


だけ


なら


いい?





いくつになっても

慣れないものはあります。



残暑

愛しているふりは やめろ、と

男は、わたしを突き飛ばした。


ああ、

これからが良いところだったのに。


悪い兆候はあった。


笑わなくなったり

話さなくなったり

感じすぎたり


いつからだろう。


長い眠りの後で

からんだわたしの髪を

男が時間をかけて

櫛で梳いたりし始めたのは。


うなじ。


日に焼けた肌の中で

白い。


長い髪は

時々

男の手で束ねられ


わたしの頚動脈と

細い呼吸器官は

その目の前で

薄い皮膚に覆われているだけだ。


ふりなんてしてないよ、

そういえば

嘘つきにならない。


愛してないし、

ふりもしてない、

そこまで言えば

ただ愚かに見えるだろう。


ああ

今日こそ

アレをさせようと思ったのに。


お互いのパートナーの

名前を呼んで

秘密の場所をひとつづつ

教えあって


それなのに男は

あんなに遠くで


わたしの夢、を

ふたりの夢、なんて

言い換えて怒っている。


終わりのある暑さ。

予測できる終わり。


悲しくない。

少しは 惜しい。





体がかたいので

運動は好きだけれど

ヨガが苦手でした。


最近ジムで

バレトンをするようになって

少しヨガの動きも気持ちいいな、と

思うようになりました。


わかっていたことだけど

体の左右って歪んでいるんだなって

思ったり…。



泣き上戸

イタイノ?

小さな子供に尋ねるように


ベッドでも

人の3倍くらいの速さで話す

その人は

初めて

声の表情を抑えた。


かみ締めていた

奥歯を緩めて

鼻にかかる

涙声で答える。


ううん。

だから

やめないで。


夜とは違う

夏の部屋の暗さに

目は慣れて


あなたも

わたしが

涙を流し続けていたことに

気づいたはずだ。


だから

やめない。


静かな部屋に

流れ出す

あえぎのような嗚咽。


わたしたちは

新しい音楽を聴くように

耳をすませ

それを聴いている。


聴きながら

奏でて。

だから

やめないで。


君がどんな人か

知らない。


泣き上戸だから

驚かないでって

言ったのは

このことか。


悲しくない

苦しくない

こうしているときだけ

本当に 

ひとりではないと

感じるから


涙は喜びに溢れ

ふたりの境界を越えて

唾液と混じり

汗と混じる。


無口だと

いぶかられたわたしの

あなたへの

ふたりへの全肯定。


嗚咽のようなあえぎ。


はなさない。





暑い日が続きますね。


わたしは

夏が好きなので

とても元気です。


ずっと夏でもいいくらい…。


最近、梨のゼリーに

はまっています。



こどもだまし

だまされたのは

誰、だったのか。


その嘘には

やさしい微笑が

添えられていた。


 なんでも できるよ。

 わたしを

 見てくれるなら。


一番簡単なのは

何も知らないふり。


大人たちの

期待を裏切らないように


驚くことや

喜ぶこと


つい夢中になって

やり過ぎないように


はしゃぐことや

まとわりつくこと


 叱って。


 ねぇ、はやく

 それを教えて。


キャンディは

魔法の薬。


今だけの

薄い物語。


やがてくる現実が

痛くても

痛くなくても


だました過去を忘れて

だまされるヒトの

言葉にできない

快感が知りたい。


その

世界への

無防備な

信頼が持つ快感を。






ご無沙汰していました。


暑さからか

パソコンが動きませんでした。

(こどもたちが

夏休みで使いまくるのも一因かも)


長男にパソコンを買い

いろいろと

高速化をはかり

なんとかまともに動くようになってきました。


また

ペースを戻して書いていきたいです。







兄の彼女

きれいな人だった。


美人ではない。

姿勢、声、言葉遣い

その佇まいがきれい、と感じさせた。


「兄のどこが好きなんですか」


サーブされたばかりのパスタを取り分けながら

半分からかうような調子で聞くと、

彼女はわたしがフォークを置くのを待って

まっすぐこちらの目を覗き込んで言う。


「誠実なところ、かな」


くつろいで見える上品な笑顔。

その笑顔のままで、

彼女はしっかりとわたしの表情を読んでいる。

きっと頭の良い人なのだ。


流行のピンクの口紅に赤ワインが混ざって

彼女の唇をぬらしている。

肉のない細いあごには不釣合いなほど

ふっくらとやわらかそうな唇だった。


「まじめさ、なら、保証しますよ」

妹の保証つき。これで良いはずだ。


皿を受け取る彼女の白いブラウスの胸元が揺れる。

くっきりとした谷間は上からのぞくと見える

ぎりぎりのところまで、さらされている。


「まじめなのは、こどもの時から?」

「さあ」

「学生時代は、もてたのかな?」

「どうでしょう」

ちらっとお兄ちゃんの横顔を盗み見る。


「おい、余計なこというなよ」

お兄ちゃんの暢気なつっこみ。

「そういうところ、兄は秘密主義なんですよ」

子供っぽく拗ねた声。ああ、完璧だ。


ははは、とお兄ちゃんが声を上げて笑う。

わたしと彼女も声を重ねて笑った。

ざわついたイタリアンレストランでは、

多少大きな声をあげても誰も振り向いたりしない。


窓の外は夏。

浮ついた季節。


お兄ちゃんの恋人が魅力的な人でよかった。

わかりやすい性的な魅力のある人で。


カンツォーネ。

明るさが作る日陰の暗さ。


子供の頃のお兄ちゃんを、わたしは知らない。


舌先にからむ濃厚な味を

掬い取る。


ただ

教えこまれた一番不道徳なやり方で。






写真展に来てくださった方々

ありがとうございます。


すごく遠くの方とか感激しました。


今週、土日までです。


会場にいたり

隣のレストランにいたりしますので

お気軽に声をかけてくださいね。


いないときは

メッセージだけでも残してください。



オトコに与える報酬、は。

要らないのは 言葉だと

わたしは 言った。


ただしらける

嘘も本当も 要らない。


すっと

立ち上がったオトコが

広い背中を少し猫背にして

小さな機械を操作している。


静寂。

その くすみ。


突然 響きわたる

ヘヴィメタル。


そんなに

睨まなくたって

ベッドの中のわたしに

少しも 文句なんかない。


うまく機嫌をそこねる。


オトコがいらだち

その整った顔を

醜くゆがめるのを

見るのが好きだ。


自信だとか

お金だとか

欲しいもののために


本当に欲しいかどうか

わからないもののために


オトコは

ぐずぐずと

自分の中の何かと

戦っているふりをする。


あきらめて

手放して

つかむ。


高く低く

上昇し落下する

旋律に沿って


重なる叫び声の

消えるほどの音量の


聞くことにも

見ることにも

いっぱいになって


注がれる。


足首に残された痣

そんな

小さな痕跡しか残せない

オトコの葛藤に


見合うだけの

報酬をはかれば

結局それが

評価だった、なんて


ああ

つまらない、と思いながら。




しばらく更新できませんでした。


それでも

ここに来てくださった方々

ありがとうございます。


今月19日より写真展に参加します。

案内はブログTOPに告知しました。

よろしければ、ご来場ください。


お待ちしています。  ひより。


うなじの手触り

正直に言うと


短く刈り上げられた

オトコのうなじに

触れるのが怖かった。


ひげの濃いオトコの

剃り跡の

初めて

肌に触れたとき


噛まれるのとも

打たれるのとも

違う痛みに

声をあげたのを思い出したのだ。


オトコは

わたしの戸惑いを

楽しそうに見ている。


シーツの上から

大事なもののように

わたしの背中を掬い


器用に

片手ずつで

わたしの腕をその首に

からませた。


太い首の

毛の短い うなじに

手のひらを

重ねるようにして触れると


思いがけず

おとなしい動物のような

優しい感触だった。


気に入った。

何度も撫でた。


記憶を震わすような

懐かしさがこみ上げ


やがて

オトコが

動きだすまで


母性に似た気持ちで

その愛撫を

わたしは

飽きずに くりかえした。





最近もまた

小説を書いています。

書き続けています。


これは

そんな中の一場面。


ブログは時々

小説のネタ帳に使っています。


来月(7/19~/25)には西荻窪で

小さな写真のグループ展に参加します。

作品は1点です。


また詳しく告知しますので

ブログ読者の方もお会いできたら嬉しいです。


会場にいるときもあると思うので

メッセージなどなどいただければ、と思います。


ずっと苦しかったよ。

カフェの外のテラスは 

まだ

雨上がりの匂い。


大きな包みをほどいて

わたしの足元に

ひざまずく

あなたを制して


わたしは

自分で

パンプスを脱ぐ。


おしゃれな

アウトドア用の長靴は

わたしのお気に入りの

レインコートと同じ

やわらかな薄緑色だ。


ひざまでの

その靴に

そっと脚を入れると


甲がひんやりとして

気持ちいい。


ありがとう。


色違いの靴をはいた

あなたと店を出て

手をつないで歩く。


舗装した道路にできる

水溜りにわざと入ると

ばしゃん、と

大きな音がした。


はずかしい。


わたしたち

きっと見られてる。


それでも

子供みたいに

きゃあきゃあ言って

はしゃいだ。


人の少ない路地に入って

ライトセーバーみたいに

たたんだ傘を

振り回しあう。


水溜りの中の

さかさまの世界。


一緒に映っている

上機嫌なふたり。


ほんとうは

大人であることを

きちんと確認してから

キスをした。


水溜りの

さかさまの二人に

ちっぽけな

しずくが落ちて


なにかを守るような

いくつもの波紋が

ぐるぐると

重なっていく。






梅雨入り、ですね。

雨の日は嫌いじゃありません。


わざと傘をささずに濡れたり

わざと雨上がりの水溜りに入ったり

本当にします。


今、近所では

タチアオイが綺麗で

近くにたくさん咲いているところがあるので


雨の日は

そこで

色とりどりの大きな花にかこまれて

耳をすませたりします。


見せたいもの

駅の改札は まだ

雨上がりの匂い。


出てくる人の

たくさんの人の中から

一人の顔で歩く

あなたをさがす。


突然 思い立った出迎えは

さっきベランダで見た

すばらしい

夕焼け雲のせいだ。


あなたの

車窓を流れていく

空を

思い待つ。


ほら

あなた だ。


怒った顔で

ひとより速いテンポで

階段を下り


わたしの胸の

鳴らない電話を

振るわせる。


ねえ

ここだ よ。


答えて

小さく手を振ると

驚いて それから

吹き出すように笑った。


そんなに

おかしいかな。

わたしの

ママチャリ姿。


どんなに恥ずかしがっても

今日は

スーツのあなたを

後ろに乗せて


家まで

土手の上の道で帰る。


大きなかばんは

かごの中。


だから

あなたは両手を

腰にまわして


わたしの髪に

顔を埋める。


鼻先がうなじに触れて

すごく

くすぐったいけど


西の海に続く

川の

橋の上につくまで


わたしの言うとおりに

目をつぶっていて。






自転車の二人乗りが好き。


いけない事?

違法かな?


でも 好きです。



守りたいもの

初めて会った日は

遠い初夏。


あなたの好きな色は?

と、

まだ慣れない横顔に聞くと


暖かい色が好きだな

と、

彼は答えた。


赤でも

紺でもなく

グリーンでも

ブラウンでもなく


「暖かい」


その

あいまいな答えのせいで

あのとき

わたしは彼に惹かれたのだ。


こんなに近く

それ以上なにも。


ふたりの中の

それぞれの

暖かな景色を守る意思。


木漏れ日

静かな時間。


ああ

彼は本当に美しい男だった。


「美しい」


その

あいまいな言葉を

あえて使い


あなたの思う彼と

わたしの中の彼を守る。


拘束のない

自由な広がりの中で。







少し、わかりにくいかもしれません。


前から思っていることですが


あえて広義な(あいまいな)言葉をつかい

話し手と受けての中に生まれる

それぞれのイメージを楽しむ


というのは、アリなのではないか、と。


前回、2s3knyさんにコメントで

好きな言葉は?と聞かれ


「美しい」という言葉の

話し手(書き手)と聞き手(読み手)の間の

イメージの大きな開きが

逆に面白くて好き、と答えようとして

これを書きました。