キロク
いつか
いなくなるとわかっていても
それが
いつかわからなければ
怖がり続けることは
できない。
ほんの少しの
覚悟という勇気。
喪失を怖れて
手に入れられなかった
多くのものと
ひきかえに
わたしは あなたを
いま
手に入れられたのだ
きっと。
ただ
まっすぐに見て
ビデオカメラのように
記録する。
アングルと
ライティングを変えて
視線と表情を指示して
やがて
記憶の編集に必要なカットを
いくつも いくつも
内側に ためていく。
あなたのためでも
未来のわたしのため でもなく
無意味な作業を
こなさなければ
息もできないわたしの
激しい感情を
なだめるためだ。
あなたを
こわさないためだ。
村上春樹さんのファンではないのですが
「ノルウェイの森」が観たいのです。
菊池凛子さんが好きなので。
あの悲しそうな目が好きなので。
薄氷
兄のいなくなった日
庭の池に薄氷が張った。
ありきたりな景色は
白濁した膜で覆われ
美しく閉じ込められた。
けして
肌を焼かなかった兄の
白い手。
その冷たい手のひらで
両頬にそっと触れられ
瞳を覗き込まれると
誰もが
彼の言いなりになった。
たくさんの女の人と
たくさんの男の人が
兄の楽しみのために動く。
愛が一番有効な手段だ。
それを知っていたわたしは
彼の白い手から
逃れることができたのだ。
そんなことをしたら
愛するよりも憎むと叫んで。
憎しみのサンプルなら
もう、他にいる。
兄の呟きが落ちた池の
薄い氷の奥を覗き込むと
彼によく似た誰かが
こちらに微笑んでいる。
何かに憑かれたような
うつろな目で。
最近
支配について考えます。
愛情を放棄しても
支配力を求める人って
なんだろうって。
11月は小説教室で
中島京子さんにお会いしました。
編集者の客観的な目と
作家の目の
両方を持っている方でした。
その二つで
自分自身の作品を見れることは
強力な武器だと思います。
きっと良いことばかりでは
ないのだと思いますが
ちょっと感動しました。
導眠
ふとんにそっと
もぐりこんで
あたたかい
あなたのからだに
ひえきった
わたしのからだを
おし
つけると
あなたはいつも
あかるいひめいをあげて
わたしの
てとあしのゆびさきを
あなたの
てとあしのゆびさきで
つつみこみ
さすり
あっというまに
あたためる。
おもいっきりの
えがおに
ないてもいいよ、
といい
おもわずゆがんだ
なきがおに
めをほそめ
ほほえみかけてくる。
ゆるゆると
ほどかれるように
ここちよくたくさん
うそをついて
ぐどんなわたしの
へいぼんなにちじょうは
すこしは
ましなものとして
ようやく
きおくされる。
ゆるされて
ふかいところで。
嘘つきだという嘘をつく。
それ以外の
気の利いた嘘がみつからない
けして言わないこと
近づきすぎると
見えない。
だから
少し
わきまえて
ここから
あなたを
見ている。
あなたに
ふさわしくない。
こころのなかで
どんなに
自分をちっぽけに
感じているのか
顔をあげて
微笑んでいるから
きっと
誰にもわからない。
勇気なんかないよ。
いつも
怖気づきそうなときには
何もかもを
面白がって
なんでもないことだと
やりすごすだけ。
あなたになら
どんなに
悪し様にいわれても
聞こえないふりをしながら
きちんと聞いて
少しでもいいから
変わりたい。
いつか
あなたに
ふさわしくなれるまで。
本当に
わかっていないんだな、って思う。
なんだよ、って思う。
そんなことばっかり
くりかえしている。
高2
授業中の廊下は
長くて冷たい。
まだ
それほど
季節は寒くないのに
静かさが
むき出しの膝裏にしみる。
教室を
追い出されるほどの反抗は
従順というカテゴリーで
皆と一緒に
くくられたくないからだ。
それでも
あなたのいない
どこに 行く気にもなれない。
教室の壁に耳をあてすませば
机の間を回り
後ろの引き戸に寄りかかって
あなたが独特のリズムで
リーダーを読む声が聞こえてくる。
腰をおろし
廊下側から
その戸に寄りかかった。
膝をかかえ
見上げる空の
つきぬける青さに
全ては
阻害ではなくて
開放なのだと悟る。
扉一枚をへだて届く
静かな抑揚の
あなたの教え。
わたしを区別する
大切な人生の一瞬は
あそこではなくて
ここに ある。
なぜか昔から
誤解されることが多く
「第一印象はめちゃくちゃ悪い」と
友人に仲良くなった後でよく言われました。
誤解されることは、慣れれば快感です。
簡単に理解されることよりも
屈辱的じゃないです。
強がりでは、ない、はずです。たぶん。
しかえし
怒りが
恥ずかしいことだと
知っているオトコは
大人なのだ。
そして
結局は
一番
子供っぽい
やり方で
恨みを晴らす。
ありきたりなオンナの
なにが怖いのだろう。
強さの裏の弱さ
明るさの裏の暗さ
隠そうとするしぐさで
さらされる傷が
オトコの優しさだけは
本物だと教えている。
オンナは知っていた。
だから
思っていた。
長い時間をかけて
覚えたやり方で
許すことで争いに
最後に勝ってしまったとしても
微笑みかけるだけで
ひるんでしまうようなオトコを
ふたたび
傷つけないようにしよう、と。
小説を書いていると
なかなか更新できなくてすみません。
今週、小説講座で矢作俊彦さんにお会いしました。
想像通りの素敵な方でした。
小説よりも映画のお話のほうが楽しそうでした。
もうちょっと早く知っていれば
シネマベーラの川島透映画祭も行ったのにな。
その前日は友人に誘われて
七里圭監督の「眠り姫」を観に行きました。
チラシに黒沢清監督の
コメントが載っていてちょっとびっくり。
すごくいい場面もたくさんあったけど
私の中では どうしても
黒沢清監督と比べてしまうのです。ちょっと残念です。
最近すこし煮詰まっていたのですが
いろいろなところへ行くと
いろいろな人がいて面白いですね。
誘ってくれる友人には
いつも感謝です。
誘惑の
― ほら。見てごらん。
その人の誘惑は
見せることから始まった。
わたしの開かれた瞳を
覗き込み
満足そうに微笑んで。
最初から
お見通しなんだ。
幼いわたしが
どうしようもなく
それを欲しがるに決まっている、と。
瞬きを忘れれば
知らず知らず
口角が緩んで
透明な唾液はそれを
汚してしまいそうになる。
あわてて拭う唇。
自分の味。
― さあ。どれがいい?
その人の歯は白く
爪は黒く汚れている。
どれと言われても
どれも
勝手に人のものを
盗ってはいけないのだ、と
それくらいのことは
わたしでもわかる。
醜さと
美しさ
言葉ではなくて本能的に
わたしは感じていた。
揺れながら
抵抗しながら
わたしにとって大切な決断のときが
今、この時なのだということを。
風の音が聞きたいです。
何かを揺らす音じゃなくて
風の
それ自体の鳴る音が聞きたいです。
道徳
いつのまにか
覚えこまされる。
きれいだね、と
誰かが指し示す。
この人の使う
柔らかな声も
笑顔も
受け入れられないのは
それが
少しも
わたしの心を動かさないからだ。
わたしの集める
美しいものを
この人はみんな捨てた。
醜いとか
臭うとかいう
そんな理由で
眉をひそめ震える手で
破壊までしたのだ。
叫び
乱れ
つばを飛ばす人に
ゆがんでいるのは
あなた、ではないかと
判決のように
言い渡すとき
わたしの中の
全てが腑に落ちて
わたしは
初めて抱きしめる。
この人の
柔らかすぎる体と
かたくなすぎる
心を。
背丈の割には
長すぎる腕で。
聞こえていますか。
来てください。
秋風に冷やされて
汚れてはいない手を
何度も
洗わせられたのに
触れたい世界は
自分より
ずっと汚かったりする。
うまくやる
うまくなる
その必要性を
いつも
言葉でなく
態度で
示してほしいのに。
クールダウンなんて
くだらない。
せっかく
上がった体温を下げて
震える体を抱きしめるなんて
遠回りなこと。
怖がっていないで
怖がらせて。
秋の雨の
雨粒ほどの質量もない
愛撫が降り注ぐ。
洗うように。
なだめるように。
珍しく体調が少しだけ悪いです。
近々検査をいろいろする予定。
なんといっても
健康診断ひとつまともにやっていないんだから
いけないな、と思います。
きっと
問題ないと思うけど
そういいながら何年もたっているので
今回は久しぶりに病院に行ってみようかな。
金木犀・銀木犀
静かなわたしには
銀木犀が似合うって
そんなに白くないのに。
華やかな
お姉ちゃんは
金木犀だったって
過去形なのに
今
ここで
話しかけているみたいに。
ねぇ
本当に心から好きな人に
振られるのは
どんな感じ?
風の吹く
花の散る
あなたを揺らす。
まったく違う花じゃ
だめだったと
なげくあなたは
だからと
当然のように
わたしを抱いて
鎖骨を舐め
のけぞるわたしの
お姉ちゃんに似た
泣き顔の角度をさがす。
わたしなら
愛せそう?
あなたの中の
記憶をごまかし
苦しみをなだめて
金木犀に似て違う
香りを放つ。
銀木犀
それ自身のために
金木犀に似て違う
声をあげ続ける。
友人に試写会に誘ってもらい
「十三人の刺客」観ました。面白かった。
三池監督は
半端なことをしないから好き。
タランティーノとか気に入ったでしょうね。
だって
殺陣とか刀の見せ方とか礼の仕方とか
美しくて、すごくかっこよかったです。
みんな良かった。
特に伊原剛志さん、すごい。
そして久しぶりに実感したのは
松方弘樹さん、すごいすごい!!かっこいい!
昔の「十三人の刺客」も観てみたいです。