Chandler@Berlin -9ページ目

Chandler@Berlin

ベルリン在住

ある行列の eigenvector が独立しているというのは嬉しい性質である.なぜなら,ある行列は eigenvector をカラムベクトルとする行列 S によって次のように対角化されるからである.

A = S λ S^{-1}

たとえば,

$Chandler@Berlin
である.

これの何が嬉しいかというと, A をかけ算するのが簡単になる点である.

$Chandler@Berlin


10回掛けてもあまりたいしたことではない.というのもλが対角行列なのでこの power は簡単だからだ.

A^{10} = S λ^{10} S^{-1}

かけ算が簡単になるとなぜ嬉しいかは, eigenvector を考えるのがなぜ嬉しいかと同じことである.eigenvectorはある行列の中の独立した basis であり,eigenvalue を使えば行列が一つのスカラ値で示されるというのが嬉しい.

しかし,ここでこの S 行列のカラムが独立していないとこのようにはいかない.それはS^{-1}が存在しないとこのこの式が成立しないからである.

ここで最初の私の疑問に戻る. eigenvalue λ が重解を持つ場合に,それは独立した eigenvector の数に関係しているかということである.これには実は名前がついている.

- Geometric multiplicity (GM): 独立した eigenvector の数
- Algebratic multiplicity (AM): eigenvalue の multiplicity

実はこれらには厳密な関係はない.(関係はある GM <=AM).

たとえば,4x4 の行列で AM が 3 の場合 (異なる λ の数は2), GM は2 になるかというとそうとは限らない.その例を示しておこう.

$Chandler@Berlin

ところで,この S はちょっと特殊で Hadamard 行列と言う.以前,私はこの行列を求める話を書いた.この行列は symmetric で orthogonal な上に 1 と -1しかでてこないというすごい特殊なやつである.

また,単位行列自身もこのような例である.4x4の単位行列の固有値は λ= 1,1,1,1 であり,固有ベクトルは
$Chandler@Berlin

の4つである.私はこれに気がつくまで一日かかってしまったが,Marcと話をしていたら,彼は最初の私の質問で単位行列の例を挙げてきた.

ただ,一般の場合には一つの λ の値に対して一つの eigenvector が対応するというのが普通だと今でも思っている. AM と GM の厳密な関係というのはあるのだろうか.独立した eigenvector の数というのは A - λ I のnull space の次元であるが,これは AM とどうかかわってくるのか.もう少し勉強しないといけない.

参考文献:
Gilbert Strang, Introduction to Linear Algebra, 4th Ed.


Eigenvalue と Eigenvector の関係で一つ疑問に思ってきたことがある.Eigenvalue はその値自体よりも multiplicity の方が興味ある対象である.なぜなら eigenvalue が同じ場合, eigenvector が独立でない「可能性がある」からである. eigen analysis のすばらしい点は, わかりやすい basis への変換にある.私の言うわかりやすいというのは, matrix が eigenvalue というスカラになってしまうという意味である. matrix は 2x2 ですら何が起こるか簡単にはわからないが,スカラ倍ならばなんとかなる.Ax = λx のmatrix A が λ に等しいというのはなんという驚きの簡単化であろうか!

ここで,eigenvalue が同じ場合, eigenvector が独立でない「可能性がある」と書いた.「可能性がある」とわざわざ quote したのは,一つの eigenvalue に対して,複数の eigenvector が存在するのかどうか不明だからである.

これが私のmultiplicity に関する疑問である.つまり,λ がmultiplicity (重解)を持つ場合,それに独立した eigenvector の数が関係するのかということである.

直感的には関わってくる気がする.というのも一つの eigenvalue に対して一つの eigenvector を計算することはできるが,二つ以上の独立した eigenvectorを探すことができるかというのが疑問だからである.

たとえば 2x2 の行列で λ = 1, 1 の場合,eigenvector は常に λ = 1 に対応する一つしかないのか? が疑問である.

これは eigenvector による対角化と関係していることが最近わかったので,ここにメモしておこう.実は私の直感は間違いである.

つまり,一つの重解になっているeigenvelue に対して複数の eigenvector が存在することは可能である.

次回は対角化と AM, GM を実際の例を見て考えてみよう.
作家のキルゴア・トラウトはstar system を使っているので,同じ登場人物が異なる話に登場する.そのうちの一人はビリーである.ビリーの話が印象に残っているのでここに書いておこう.

あるビリーの人生では,ビリーは問題に直面している.それは彼が人生の意味を見失っていることである.彼はそれを再発明しようと SF を読む.他の文学は残念ながら彼に意味を与えなかったため,これが最後の希望だった.しかし地上では彼の人生の意味は四次元の世界にあるため,彼はそれを認識することができない.彼は心理学者に相談する.

ある時彼は最近亡くなった有名な人のトークのビデオを見る.彼は毎朝鏡に向かい,自分に尋ねる.「もし今日が人生の最後の日であるならば,今日やろうとしていることをするだろうか.」ビリー以前に既にこのような考えを聞いたことがあった.しかし,同じ内容であるにもかかわらず,この話者の話は彼の心に響いた.話者は言う,誰もが心のどこかで人生の意味を知っているのだと.

ビリーは考えた,もしこの考えを使って人生の意味を見出そうとするのであれば,それは彼にとって単なる概念ではなく.真実に近くなくてはならない.ビリーは自分の最後の日,デッドライン,を決めた.それまでに人生の意味が見い出せなければ,それは真に彼の最後の日になるであろう.ビリーも人生の意味がわかるかもしれない,しかしあまりにも長くそれを見つけることができないのであれば,それは彼にとって意味のないことであった.なぜなら毎日が彼にとって苦しみであったからだ.

この考えは最初の数週間,彼に人生の意味は与えなかったが,彼はより世界をクリアに見ることができるようになった.何をすべきかはわからないが,何をすべきではないかが良く見えるようになったのだ.彼の人生への興味は多少回復した.彼は今日が人生最後の日ということは実感できなかったが,あと何日で終わるということを考えることで,今日が終わりに近い日であると実感するようになったのだ.

しかし,結局彼は彼の決めたデッドラインまでに人生の意味を見い出すことはできなかった.そこで彼はこの世界から去っていった.彼は意味はみつけられなかったが,最後の日々を多少良く暮らすことができた.しかし,それはそれなりに良いことなのだろう.そういうものだ.