呉善花先生の講演録その1 | 井上政典のブログ

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第5回一月三舟の会 呉善花先生の講演録

                      平成23年8月29日

                       西銀ビル

                       記録者 井上政典(歴史ナビゲーター)

 

【会の雰囲気】この会も第五回目、先生をはじめ会場にこられている方々とも顔見知りになり、学校の授業前のような雰囲気が流れます。今回は代表世話人でありながら、初参加の九電の松尾会長が挨拶されました。JR九州の石原会長や長谷川会長はもちろんのこと、他の方々もクラスメートに会うようなアイコンタクトによる挨拶を会場のあちこちで交わされていました。そんな和やかな雰囲気で先生の講演が始まりました。

【講演内容】

 九州・福岡で私の塾があることもそうですが、この塾のメンバーがそうそうたる方々ばかりなので、それが大きな自慢です。

 先日、世界の民族と宗教を調べることも兼ねて、フランスへ行ってきました。リヨンというフランスの中でもおいしいレストランが多いと評判の街で、タクシーの運転手さんにどこかおいしいものはありませんかと尋ねると、なんとその運転手さんの答えが、『寿司レストラン』と答えるではありませんか。さらに、この地では日本が大ブームで、日本食レストランが増え、日本のものが大好きなんだと答えたのです。


 それでは日本にいったことがあるのですかと聞くと、『いや一度も無い』と運転手さん。やはり円高の影響で憧れの国日本には行けてないが、必ず一度は行ってみたいと思っているとのこと。


 大学でも、茶道がブームとなっており、着物を着てお茶会に参加するのが流行っています。そして寿司だけでなく和食自体がヘルシーで太らないのでとても人気が高いのです。食の大国フランスでも、和食の美しさ、おいしさは評判ですし、東京のミシュランの星の数は、パリのそれより多いという事実もあります。

 ラテン系は大雑把で、シャワーが壊れているとホテルマンに言ってもすぐ直すとは口では言いますが、直ったためしがありません。宅急便は一度家にいなかったら二度と配達してくれません。手紙はちょくちょく届かないこともあり、電車の時間はほんとにいい加減。私たちの旅行で5回ほど電車に乗ったのですが、そのうち2回ほどうまく乗り換えの時間に間に合わなくて困ったことがありました。


 日本ほど、正確な時間に電車が入り、それも毎回決まった場所にきっちり停車する国ありません。一分でも遅れようものなら、しつこいくらい何度もお詫びのアナウンスが流れます。こういう緻密な心遣いが精密な技術を生み出し、そしてそれが社会の隅々まで浸透しているのが日本です。


 今回日本のパスポートで始めてヨーロッパに来ました。日本のパスポートは世界最強です。今までもフランスには韓国人として何度か来たことがありますが、この日本のパスポートを持った今回の旅行は、明らかに回りの待遇が違っていました。その違いの大きさに驚き、そしてその日本人として特権に酔いしれたのです。日本人とわかるとフランスの人たちは優しく接してくれ、賓客をもてなすかのような待遇でした。これは韓国人の時には一度も味わったことが無く、いかに日本人がフランスから好かれて、日本のパスポートの威力がすごいかを体験したのです。


 実は旅の途中で韓国人の学生たちと会ったのですが、彼らから『日本人ですか』と英語で聞かれたため、そこからの会話はすべて英語で日本人として接しました。韓国人だったと話したくありませんでした。もし周りの人に私が韓国人だとわかるとこれまでの特別待遇が消えてしまいそうで、最初から最後まで英語で日本人として接したのでした。

 今回は、韓国経済についてお話をします。私は経済学者ではありませんが、文化論を交えてできるだけわかりやすくお話をしたいと思います。


 今日本では「韓国の経済のあり方を学べ」という論調が多く見られます。すると学ぶことの大好きな日本人はまじめに取り組むのですが、文化、経済などどこをとってもなにを韓国に学ぶことがあるのでしょう?


 学ぶことが大好きな日本人と、教えることが大好きな韓国人ですが、現在韓国の経済状況は決していいとはいえません。サムソンや現代自動車の躍進や規模のことを日本のマスコミは言いますが、現実は中国やインドに追いつかれて苦戦をしています。以前は経済指標である21項目の分野で韓国はトップでしたが、いまやほとんどの分野で中国に抜かれています。一見は成功しているように見えますが、その中で犠牲になっているものがたくさんあるのです。たとえば倫理道徳や人情のようなものは崩壊し、貧富の格差が広がり、自殺がOECD先進国の中の人口比でトップです。凶悪犯罪やレイプもワースト2で、ここはロシアが一番、アメリカが三番です。


 日本はどうかといいますと、あらゆる犯罪率が他の国に比べて低く、治安の良い国となっています。ところが韓国や中国など犯罪の多い国からの入国を簡素化して人の動きを活発化させていますが、これで日本は大丈夫なのでしょうか。


 日本人が世界に行くとどこででも私が受けたような歓待を受けます。それは、日本人が礼儀正しく、几帳面でその国の習慣を遵守し、何も備品を盗まないと知られているからです。それとおなじことを中国や韓国の人々に求めるのは無理があります。

 今韓国では社会倫理崩壊の中で、経済だけは何とかしなければならないと大統領を初めとして政府が躍起になって大企業重視の政策を掲げ、これが何とか成果を挙げているのです。


 戦後、陸軍士官学校などで日本式の教育を受けた朴大統領が日本のシステムを導入し、日韓基本条約に基づき支払われたお金で一部の企業へ投資することにより、国際競争力をつけさせ、韓国経済を牽引させました。そして企業は優秀な人たちを日本で教育を受けさせました。しかし、日本で教育を受けた人たちが帰国後すぐに他の会社に高給に釣られて転職していくなど、個人主義の強い韓国人にはなかなか日本的な集団主義の考えが企業に定着しませんでした。

 それでも1960年代後半から漢江(ハンガン)の奇跡といわれる経済発展が日韓基本条約締結を機に成し遂げられましたが、1997年のアジア通貨危機に端を発する経済危機が韓国経済を襲いました。そのため大量の企業倒産や失業や財閥解体がおきました。それにより韓国経済はIMFの管理下に入ることを余儀なくされたのです。


その後IMFの指導によりアメリカ主義、それも徹底した合理主義や能力主義、超エリート主義が導入されました。このIMF管理下に置かれたことを韓国人はとても強烈に受け取り、いまでもIMF前とかIMF後という言葉があります。それほどインパクトの大きい事件だったのです。


 農耕が中心だった韓国人はそれを否定し、IT産業を経済の中心に持ってきた政策を政府と一部の企業が一体となって推進していきました。


 そのやり方は、営業と宣伝力と現地化によってもたらされ、日本製品が浸透していた先進国へは進出せず、中進国へいろんな機能をはずして価格を下げた商品を輸出していきました。


先進の技術力では到底日本にはかなわないことを知っているため、基本的な機能がつき、価格の安い商品を中国や東南アジアに売っていったのです。そのための営業員は現地に家族ごと引越しそこに定住する政策が取られました。日本人が決して行かないようなアフリカの奥地にも韓国人が定住し、その地域経済に密着し販路を拡大しています。


このように政府と一部の企業が一体化して進出したのです。その際に韓国では強力なリーダーシップを持った政治家と企業の経営者がすばやく決断を下しました。つまりトップダウンが徹底して行われ、タイムリーな進出を果たすことが出来たのです。日本では各自の合意を取り付けてから動くため、韓国から見れば動きが鈍く、そこに付け込んで機動力を活かし市場を開拓して行ったのです。


しかし、輸出は伸びていますが、部品や資材を日本や他の国から輸入してそれを完成品として輸出するので、実際に手元に残るお金は少なく、中小企業や国民にはほとんど恩恵がいきわたりません。さらに経営者はアメリカ留学帰りの超エリートばかりで社会全体のことよりもその企業や自分のことが優先されているために、広く社会に貢献するということはあまり考えられません。


このような超エリート主義が瞬く間に浸透していった背景には昔から韓国には「科挙」の制度があり、優秀な人材を集めて国の政治を担わせるという伝統があるからです。そして儒教の国ですから、上下関係がはっきりしている時ほど力を発揮でき、今の日本のようになんでも平等という社会では力が出ないのです。


韓国人は天才が尊ばれ、ほめ言葉も「あなたは天才」と言われると嬉しいのです。また、IQが高いことは日本ではあまり意味を成しませんが、韓国ではIQの高い人はいきなり仕事で高い役職につき、またすぐに力を発揮します。


日本では能力と人間関係などを積み重ねた総合力を持った人がトップに立つことが多いのは良くご存知のことだと思います。「成金」という言葉は、日本では若干軽蔑の意味が  含まれていますが、韓国では実力があるから急激に偉くなったと言うことでヒーローとみなされます。


さらに経済学よりも経営学のほうが上に見られます。日本の大学で経済学科よりも経営学科のほうがなんとなくしたと見られる傾向を考えると真逆です。これは、理論よりも実学を重視することからきており、過程よりも結果を求める傾向が強いからです。


そのため韓国政府は、野球やサッカーなどの特定の分野を強化するための学校を作りました。そこに所属する選手は、みなスポーツエリートで、実力があれば有名になり、高額の収入が得られるようになるため、熾烈な競争が起こり、ぐんぐんと実力をつけてきます。また日本で起こっている韓流ブームと呼ばれる現象にも政府が莫大なお金を出資して仕掛けるのです。


しかし、経済市場では国内で不要な競争をなくすため、財閥を統合し各業種にひとつだけに絞り、国際競争力のある会社にしています。日経新聞などはこれを評価しています。これを強力な政治力でやり遂げたのです。ほとんどの韓国人が賛成し、いまではサムソンや現代自動車の敵は国内におらず、海外の企業との競争を見据えて企業活動を行っています。しかしそれは韓国国内に独占企業を誕生させたのです。


これらは韓国では企業の経営者より、政治家が上とみなされる傾向があり、国の方針に従うのが当たり前という風潮が残っているためです。そのため、政治家は日本と比べ物にならないくらいすばやく、効率的に政策を実行に移すことが出来ます。


日本はといいますと、いろんな政治家にもお会いしていますが、ここにおられる経営者とお会いする時ほどの緊張感は今ではありません。日本を動かしているのは政治家ではなく、企業人だということを悟ったからです。