読了記録

 

 

 

皆川博子 長編推理コレクション 2

巫女の棲む家

妖かし蔵殺人事件

 

著:皆川博子 編:日下三蔵

 

柏書房

 

 

 

就寝前読書にて

収録されている二編のうちの残り一編

『妖かし蔵殺人事件』を読了

 

 

「妖かし蔵」というのは

芝居の小道具が収められている

「乙桐小道具」の蔵で

 

著者自身による

あとがきによると

 

ハーバート・ブリーンの

『ワイルダー一家の失踪』は

秀作ではないと評されていますが

人が次々に消失するという趣向が

面白かった。人間消失を

違う方法でやってみたのが

『妖かし蔵殺人事件』です。

 

とのことで

まさに、その蔵での人間消失や

瞬間移動した死体? 的な

あれこれがありつつも

 

読んでいて、改めて

気がついてしまったのは

私自身の嗜好で

 

ミステリー(推理もの?)的な

たとえば、犯人は? トリックは?

のようなところには

それほど興味関心がない

ということで 笑い泣き

 

 

というわけで

人が消失する蔵と同様に

重要な舞台のひとつである

地芝居の小屋「瑞穂座」

 

蝋燭の本火のみを灯りとした

(吊り蝋燭は「瑠璃燈」と

とても趣のある名称で呼ばれる)

芝居小屋の様子と

 

そこで演じられる

江戸歌舞伎の演目

 

化けもののような巨大な鯉(鯉の精)と

勇者が、水中で格闘する

俗に「鯉つかみ」と呼ばれる

豪快な立ち廻りの様子や

その舞台装置のありよう等を

 

著者の筆致から

もくもく、ふわふわと

脳内映像化し、堪能 照れ

 

 

そして「蔵」には

これまた、ストーリー内で

ひとつの重要なキーともなる

田之助の首(切首)が

収められていたりもして

 

田之助(澤村田之助)といえば

その生きざまを描いた

同著者の『花闇』が思い浮かび

 

そして、いま私が

仕事場への行き帰りの電車内で

読んでいるのは、同じく同著者の

それらともあちこちで繋がりのある

『写楽』だったりもして

 

こうして、期せずして

繋がっていく、おもしろさ

 

そして、それは

著者が書くにあたって調べたこと

それによる派生だと思われるので

当たり前といえば当たり前

なのかもしれないけれども

 

でもやっぱり

読み待ちの本棚から、次はこれ、と

直感で(指が吸い寄せられるように)

選び出した身としては

こんなにも繋がっていく お願い

というのが、なんとも

うれしかったりして

 

 

うれしい、と言えば

巻末に、いくつか

本書に纏わるもの、そうでないものの

インタビュー集や

 

付録:皆川博子になるための135冊の本

と題して、著者が選んだ本のリストが

ずらずらっと収録されているのが

なんともうれしく、興味深く読み

 

 

そして、インタビューの中に

なんとなくは知っていたものの

具体的な言葉を目にして

改めて驚愕だったのは

 

私はそのころ、別の社の担当編集者に

「読者が二時間で読み捨て

読み終わったら中身を忘れるような

ミステリを書いてください。

皆川さんがこんなつまらないものは

書きたくない、と思うようなものを書けば

読者は楽に読め、同じようなものをまた

買ってくれます」

ーほんとに、そういう言葉で言われたのー

と命じられており

もう書くのをやめようかと

泣いていた時期でした。

 

あまりにも 凝視

著者を、そして読者も含めて

貶めているし

 

まったくもって、双方を

金儲けの「道具」としか見ていないのね

と、心が痛み、かつ、そんなことを

そのままに言われた著者の心中たるや

察するに余りあって

 

私は、そういった状況を経たのちの

著者が描きたい世界を

そのままに爆発させた

幻想色に満ち満ちた作品群が

もうたまらなく好きなので

 

いや、もう「好き」という言葉では

全然足りなくて、この人が書き

立ちあがらせてくれる世界に

読むことによって、潜りこめる

その快楽たるや

 

それがあるからこそ

生きていられる、というくらいに

 

私にとっては

「生きるために必要な水」

くらいの存在なので

 

そんな、心ない言葉を投げかけられ

心が折れかけても、書くのをやめず

そしていまや、己が書きたいものを

書き散らして(最大の賛辞!)

くださっているのが

もうたまらなくうれしくて

 

 

そうそう

うれしいと言えば、さらに

巻末に収録されている

編者 日下三蔵さんの解説で

 

愛と髑髏と』収録の

「風」に言及がなされていて

 

そうそう!そうなの! お願い

あの冒頭の一文の、破壊的な威力と

痺れるように、浸透してくる

蜜のような、毒のような、うっとりとした

あのたとえようもない、妙味たるや…! 照れ

 

と、おこがましいながらも

またしても、仲間発見…!! お願い

と、うれしくなってしまい

 

 

そして、ここでもまた

著者の言葉(書状の文面として)

 

日頃、幻想小説を書きたいと

わめくたびに、編集者に

売れないからダメ、と拒否され

悲しんでいます。

 

が登場し

 

いやぁ、本当に、返す返すも

そんな逆境、苦境を乗り越えて

幻想小説を書き綴ってくださっている

いまに、もう感謝しかありません

 

どうぞ、心の赴くままに

書きたいものを

書きたいように、書いてほしい

それにつきます

 

個人的な要望というか

願望としては

御歳94歳の先生なので

 

以前も似たようなことを書いたのですが

もう、いっそのこと、先生お得意の

幻想世界の住人となって

(ヴァンパイアとなって?)

未来永劫、書き続けてくれないかなぁ、と

 

その御身で調合され、熟成され

幻想小説として産み落とされるその世界に

救われる読者は、私を含めて

間違いなく一定数、いくら時を経ようとも

存在し続けると思うのです