読了記録

 

 

 

愛と髑髏と

皆川博子

角川文庫

 

 

・風

・悦楽園

・猫の夜

・人それぞれに噴火獣

・舟唄

・丘の上の宴会

・復讐

・暁神

 

8編の短編収録

 

 

幕開けの「風」の一行目

 

庭は、寝がえりをうって、背をむけた。

 

に、まず痺れ

 

仕事場へと向かう

朝の電車の中

だったのだけれども

 

寝ぼけ眼が一瞬にして

見開かれ

 

それと同時に、脳内が

うっとりととろけた瞬間

でした

 

 

「庭」が「寝がえりをうつ」

 

この発想

 

そして、この「風」は

収録されている中でも特に短く

5ページほどの掌編

なのだけれども

 

その一行目の驚きはそのまま

まったく裏切られることなく

めくるめいていき

 

「寝がえりをうつ庭」に対して

「剥製の鳥たちに魂をわけ与える少女」

が登場し

 

ほんとうに

ひとかけらの無駄も余剰も

不純物もなく

 

そして、容赦なく

描きあげられる幻想的な絵

 

まさに極上の逸品

 

 

あぁ、これこそ

わたしの愛してやまない

「皆川幻想」なのだと

再認識しつつ

 

自分でも意識していなかった

心の飢えや渇きがうるうると

満たされていくのを感じ

 

「皆川幻想」は

わたしにとっての水

(なくてはならないもの)

なのだなぁ、と改めて

 

 

現実的なものから

ひたすらに幻想の中を

彷徨っているようなものまで

 

幻想、奇想、眩惑、狂気、残酷

毒、妄想、幻覚、悪夢、夢幻…

 

それらがそれぞれの配合で

練りあわせられている8編を

貪るように堪能

 

 

どれも味わい深かったけれど

特筆するならば

 

冒頭の、一行目からして

すっかりとやられてしまった「風」

 

それぞれの人物の感情が

容赦なく炙り出され、からみあい

特に、主人公である

小学生の少女の気持ちが

まるで、同じ年の頃のときの

自分の気持ちかのように

生々しく重なって

終始、圧倒されてしまった

「人それぞれに噴火獣」

 

このね、読みながら

脳裏で描き、認識していた世界が

最後の最後で、くるりと

ひっくり返る、この感じ

たまらなく好きで、思わず

クスクス、ニヤニヤとしてしまった

「丘の上の宴会」

 

 

そして、解説が

この闇と光』や

一八八八 切り裂きジャック』の

服部まゆみさんで

 

そんな繋がっている感も

またうれしく

 

その解説の中で

とても印象的だった部分を

ここに抜粋引用

 

一度、あまりにも多彩、活発な執筆に、

「どうしてそんなに次々と書けるのですか?」

などという不躾な質問をしたことがある。

答えはいとも明瞭であった。

「書くのが好きだから……

書かずにはいられないのよ」

ー 天性の作家である。

 

いや、これ、本当に

 

御歳94歳の皆川博子先生

なのだけれども

 

今回読んだこの本のように

旧作の復刊も進みながら

新作も旺盛で(年に1冊は出ている)

 

いっこうに、読むのが

追いつかないのである…!

(うれしい悲鳴)

 

こうなったらもう

200歳くらいまで

書き続けてほしいものである

(いや、本当に、切実に)

 

 

もうひとつ、とてもうれしくて

ニヤリとしてしまった部分を

抜粋引用

 

本書に関して私見を述べれば、

『風』は最上の媚薬

 

そう、ほんとうに、媚薬、で

うっとりと酔いしれたのでした

 

「皆川幻想」好きには

たまらない一編、だと思います

 

味わえて、ほんとうに

うれしかった