『枕草子』の「中納言参りたまひて」。機転の利く言葉。あ | barsoのブログ

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世の中に人生ほど面白いものは無し。いろいろな考えを知るは愉快なり痛快なり。
FC2にも共通の姉妹ブログを持っています。タイトルは 『バーソは自由に』 です。
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 ブログは、次は何を書くか、どう書くかで、ちょっと悩むことがあります。
 そんなときは温故知新、『枕草子』の「をかし」な話がヒントになります。

 平安時代、「をかし」とは、風情がある、興味深い、美しく愛らしいといった意味でしたが、清少納言は「いいね!」を付けたいと思ったら『いとをかし』と言って面白がり、「四季はそれぞれにいいわ」と思ったら『春はあけぼの』『夏は夜』『秋は夕暮れ』と感激して断じ、日常のノンフィクションを明るく屈託なく書いています。

 一方、紫式部の『源氏物語』のほうはフィクションの王朝小説で、こちらは「あはれ」の文学と言われています。

      
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      ブログ作成中の清少納言。赤いノートパソコンに見えるのは硯箱です。

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 『枕草子』の「中納言参りたまひて」に、軽い「をかし」な話が出ています。
 日常のちょっとした諧謔(知的ユーモア)話が書かれていますが、清少納言の持つ機知と、平安の宮中の穏やかな雰囲気をうかがい知ることができます。

 

 

【意訳】
 中納言様(藤原隆家)が(姉の中宮定子の所に)来られて、「扇子の骨を手に入れましたが、あまりに素晴らしい骨なので、素晴らしい紙を見つけて、この扇子の骨に張って差し上げたい」とおっしゃいました。

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 どのようなものですか?と(中宮定子が)お尋ねになったら、「すべてが素晴らしい骨です。『いまだ見たことがないほど素晴らしい』と人々が申しております。まことにこれほどの骨はわたしも見たことがありません」と大声でおっしゃいます。
 私(中宮定子に仕える清少納言)が、「それでは扇子の骨ではなく、クラゲの骨のようですね」と申し上げたら、中納言様は「その面白い発言はわたしが言ったことにしましょう」と言って大笑いされました。

 こんな(自慢めいた)ことは片腹痛きことに入るのでしょうが、(宮仕えの)女房たちが「一つも書き洩らしてくれるな」と言うので、(さて)いかがいたしましょう(もう書くしかないですね)。

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※「片腹痛き」とは、1) 腹立たしい、癪に障る、腹が立つ。2) 滑稽で笑ってしまう、おかしい。3) 哀れで情けない。という意味です。


 清少納言は『三十六歌仙』の一人で、文系の才女。頭の回転が速かったことは、「こんな素晴らしい扇子の骨は見たことがない」という話を聞いて、「クラゲの骨は見たことがない」ことを瞬時に思い出したことから分かります。

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 さて、『枕草子』は約300段から成り、内容は3種類に分類できます。
 1) 『類聚(るいじゅう)段』:「春は」とか「にくきもの」とテーマ別に書いたもの
 2) 『日記段』: 宮廷生活を回想した日記的なもの
 3) 『随想段』: 様々な思いを綴ったものや歌の書きとめなど

 この「中納言参りたまひて」の話は、2)の『日記段』に当てはまります。清少納言は、女房たちの頼みだから仕方がないと言い訳しながら、自分の才知を自慢しているのです。
 一条天皇には妃が二人いましたが、清少納言は定子(ていし)に仕え、紫式部は彰子(しょうし)に仕える女房でした。二人は互いに意識していたかといえば、紫式部のほうは清少納言の博学に強いライバル意識を持っていたようです。[※]

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 大雑把に言えばブログもカテゴリが3タイプあります。
 ブログは、1)  写真やPC、ペットといった個人的趣味の他に、社会問題、芸術、文学、科学、思想などの分野で「テーマ別」に書いたり、2) 「日記」のように日常のちょっとした出来事を気軽に書いたり、3)  エッセイのように日頃の自分の思いを自由に書ける情報発信ツールです。さらに波長の近い友人もできるので、じつに有難い時代になったものだと思います。

 しかし単に「ラーメン食いに行った、うまかった」ではつまらないので、をかしな書き方を工夫したり、をかしな冗談やYouTubeを入れたり、をかしなイラストを描いている人もいます。そのように素材の選択以外に味付けやトッピングも考えるのもブログの面白いところでしょう。

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      女をあおぎ見ている男。女は頭のトッピングが凄い。(Image Creator)


 バーソのブログは、思いつきをふくらませた風船ブログです。
 私は大抵テーマを絞って書いています。時々落語調や詩文もどきや文体を変えて書いているのは、せめては「ひと味」違えようと私なりの工夫をしているつもりです。
 日記的な話やエッセイ風の話をほとんど書かないのは、ひと様に披露したいほどのをかしな話題とその筆力がないからです。

 びしっと骨のある話をたまには書きたいと思っているのですが、それができないのは、気骨(きこつ)に欠け、気骨(きぼね)が折れているからでしょう。右の頬を打たれたら明後日(あさって)のほうにふわーッと飛ばされてしまうほうなので、だから私の場合は "暗げ" な風船ブログなのでしょう。(笑)

 では、明かるげなスローガンをどうぞ。
 「クラゲのように、自由自在に海を漂い、人生を楽しもう」
 「クラゲのように、流れに逆らわず、しなやかに生きよう」
 「クラゲのように、見た目とは裏腹に強い生命力を持とう」




【備考】――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※清少納言と紫式部は、それぞれ仕える主君(天皇の后)が違っており、二人の宮仕えしていた期間はわずかに異なっています。清少納言が宮中を去った4年後に紫式部が宮仕えを始めています。二人の女房には直接的な面識はなかったでしょうが、比較される立場にはあったようです。特に紫式部は日記の中で、清少納言のことを、「をかし、をかしと言ってるが、作者の頭が一番おかしいんじゃないの」と評し、「高い教養をひけらかし、なんでも知っていると知ったかぶりをする女」と酷評しています。
 https://www.rekishijin.com/33811 
 https://news.infoseek.co.jp/article/toyokeizai_20240210_733093/?p=1
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