ハマスとイスラエルの戦争はどちらに正当性があるか。a | barsoのブログ

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 ガザでは、パレスチナの「土地」を巡る争いがテロと戦争の原因になっている。

 イスラエルは「昔、この地域には古代ユダヤ王国が存在していた」と過去の支配権を主張し、パレスチナは「我々はこの地域に長い間、暮らしてきた」と実際の居住権を主張している。両者を隔てているのは宗教の壁ではない。

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 メキシコ国境の壁に似た「ヨルダン川西岸地区の分離壁」 出典:Wikipedia

 どうしてこうなったかを、ヘブライ人・イスラエル人・ユダヤ人とパレスチナ人の違いも含めて、この地の歴史から考えたい。
 (聖書時代の歴史の理解が深まって興味深いと思いますが、忙しい方は最後の結論部分だけでもお読みください)

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 古代、パレスチナは「カナン」と呼ばれ、カナン人が住んでいた。
 下の地図では帆船が向かっている先が「カナン」。その「」の字の右にある水色の細長い湖が「塩の海(死海)」で、そこから上にほぼまっすぐ伸びた線がヨルダン川。この地域にはカナンの7つの民族が住んでいて、彼らが先住民族だった。

 沿岸地帯には海洋民族のペリシテ(フィリステア)人が住んでいたので、古代ローマ人はここを「ペリシテ人の土地」つまり「パレスチナ」と呼んだ。

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  出典

 このカナン人の地「カナン」に、イスラエル人が移住し、カナン人を滅ぼす。
 西暦前2000年頃、バビロンにいたアブラハムという族長が一族郎党を引き連れてカナンの地に移住した。そうした理由は聖書の神エホバから「私の示す地へ行け。そうすればあなたの名を高め、祝福しよう」と言われた約束を信じたからだ。(創世記12:1-3)
 アブラハムはヘブライ人と呼ばれていたが、孫ヤコブが天使から「イスラエル」と改名させられたので、その子孫はイスラエル人と呼ばれるようになる。[1]

 西暦前1500年頃、モーセの後継者ヨシュア(ギリシア語だとイエス)がカナン人の諸都市を征服し、イスラエル12部族が定住するようになった
 イスラエルの軍勢は敵対するカナンの諸民族を「滅ぼし尽くした(新共同訳)」が、「滅びのためにささげた(新世界訳)」とか「聖絶した(新改訳)」とも訳されているように"聖戦"と考えて全滅させた。(申命記7:2)
 すなわちイスラエル人は、カナン人の男も女も老人も子供も、また家畜の牛も羊も皆殺しにした。戦利品を私物とすることは許されず、すべてエホバ神への捧げ物とした。(申命記7:2, 20:13,14; ヨシュア6:21,24)

 祭司がラッパを吹いて7周したらエリコの城壁が崩れた。→ジャズ『ジェリコの戦い
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 ユリウス・シュノル・フォン・カロルスフェルト『エリコの陥落


 イスラエル人はカナンに古代「イスラエル王国」を建国した。
 西暦前1000年頃、イスラエルは王政国家になる。3代目の王ソロモンの時代にイスラエルは栄華を極めた(遠くからはるばるやってきた「シバの女王」が神殿のあまりの壮麗さに気を失ったとの記述が残っている。→レイモン・ルフェーブルの同名の音楽 YouTube
。  しかし内乱のために南と北の王朝に分裂
 北のイスラエル王国はアッシリア帝国に滅ぼされて滅亡(これが「失われた10部族」で、その一部が日本に来たという話がある)。
 西暦前600年頃、南のユダ王国の民は新バビロニア帝国に強制的に移住させられるが、70年後に捕囚から解放されて再建(この頃からイスラエル人は「ユダの子ら→ユダヤ人」とも呼ばれるようになる)。
 西暦1世紀頃、ユダ王国はローマ帝国の支配下に置かれて「ユダヤ属州」となった。(この頃、イエスが宣教活動を開始して刑柱死を遂げる)。
 西暦70年、ユダヤ人が独立を目指してユダヤ戦争を起こすが、ローマ軍に包囲されて神殿が破壊され、国家も滅亡(このときに破壊されたエルサレムの城壁が「嘆きの壁」)。
 以来、ユダヤ人は国を失い、ディアスポラ(離散民)となって世界各地で暮らす人が増えるが、民族意識はしっかり保ち続ける。

 パレスチナでは、歴史に応じて支配者が変わっていくが、ここに住む人々がアラブ化していき、パレスチナ人と呼ばれるようになった


 20世紀になり、イスラエル国が建国され、パレスチナ人が追われるようになる。
 1948年、イスラエル国が約1900年ぶりに建国。その結果、住民のパレスチナ人は追い出され、居住地は縮小され、「離散民」のような悲惨な状態になっていく。

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 赤色地域には1994年以来「パレスチナ自治政府」が存在しているが、独立国家ではない。
 人口は両地域を合わせて約455万人で、その過半数は15歳以下の子供。地図出典


 普通は1900年間も国を失って離散していれば、世界各地の民族に同化しそうなものだが、ユダヤ人は民族意識を強く保ち続け、再び自分の国を再建した。
 イスラエルの面積は日本の四国程度。現在の人口は東京23区より少ない約950万人だが、政府と国民の愛国心が強く、軍隊も非常に強いため、周辺のアラブ諸国は束になっても敵わない。なお、パレスチナ人の人口は約550万人。


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 相手が悪いので、攻撃する必要性があるなら、その相手を直接攻撃すべきだ。
 国の政策は政府が決めている。敵国の首脳陣を狙わず、直接関係のない民間人を無差別に殺すのは的外れであり、正義ではない。
・ハマスはイスラエルの民間人を大勢殺し、イスラエルも報復で民間人を殺した。
・プーチンはウクライナ東部のロシア系住民を守ると言い、民間人を大勢殺した。
・赤軍派3名はアラブ赤軍の義勇兵と称し、テルアビブで26人の民間人を殺した。
・習近平は台湾は自国の一部だと言って、台湾の民間人を殺そうとしている。
[3]
 坊主憎けりゃ袈裟も帯も足袋まで憎め、というのは盛大なお門違いだ。

 イスラエル人もパレスチナ人もカナン人も、みな「離散民」だった。
 まとめると、パレスチナの地には、ヨシュアの時代から1世紀までイスラエル人が約1600年間住み、そのあとは20世紀までパレスチナ人が1900年間ぐらいは住んだ居住年月は後者のほうが長く、直近だ)。
 しかし一番先は誰かと言えばカナン人が先住民であり、近年の研究では現代のユダヤ人とアラブ人には古代カナン人のDNAが受け継がれているそうだ。
 だから昔々のことを言いだせば、人類はみな本当に兄弟なのである。[4]



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[1] アブラハム86歳は子供が欲しかったが、10歳下の妻がうまずめだったので、奴隷女によって息子イシュマエルを得る。のちに妻は奇跡的に息子イサクを産むのだが、その嫡男を妾の子がからかったので、妾と子は家を追い出されて別の部族となり、この子孫がアラブ人となる(創世記21:8-21)。イスラエル人とアラブ人は腹違いの兄弟のようなもので、共にアブラハムが先祖。同じ神を崇拝し、『モーセの五書(旧約聖書の最初の5冊)』を共通の経典としている。

[2] 数種のチャットAIに「どちらに正当性があるか」と訊ねても、領土問題は複雑だとしか返事が返ってこない。20世紀に入ってからの歴史―――かつて王国があったパレスチナに戻ろうとする「シオニズム運動」、イギリスの「三枚舌外交」、国連による「パレスチナ分割決議」、4回に渡る「中東戦争」、アメリカによる支援などで、イスラエルがパレスチナで支配地域を拡げていき、被害者だったイスラエルが加害者と見られるようになった経緯については以下のサイトが参考になる。
 https://www.nhk.or.jp/minplus/0121/topic015.html
 https://gooddo.jp/magazine/peace-justice/dispute/31728/

[3] 台湾の主権問題ではChinaが嘘を言っている。
 1月14日、王毅外相は会見で「台湾が中国の一部という基本的事実を変える事はできない。台湾が国家であった事は過去になく将来にもない」と述べたが、チャイナは台湾を「化外(けがい)=未開」の地として長い間ほったらかしにしていた。日清戦争で清国が負けてから、日本が台湾を併合して開拓を進めた。戦後、台湾【中華民国】は1971年まで国連の創立メンバーだったが、国連から脱退したので1949年に建国されたばかりの新しい国【中華人民共和国】が常任理事国になった。

[4] 古代カナン人のDNAは現代アラブ人とユダヤ人が継承したと最近発表された。古代イスラエル人はカナン人を「ことごとく滅ぼした」と聖書に書かれているが、和平を乞うてきた部族やイスラエルに味方をした一部の人(遊女ラハブなど)は滅ぼさなかったので、古代のカナン人のDNAは現在まで続いている。
 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/060100328/
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