苦行で悟るか。在るがままで生きるか。 a | barsoのブログ

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世の中に人生ほど面白いものは無し。いろいろな考えを知るは愉快なり痛快なり。
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例えば、水の上を歩けるようになれれば、もう人知の領域を超えたと思いますか。 

 

夜が明ける頃、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。 

弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておび

え、恐怖のあまり叫び声をあげた。           

                    ――――新約聖書マタイ伝 十四章二十五、二十六節 

 

                 

 

水上を歩く修行者――――バーソ・モジリアーニ・アクタガワ  

 

 ある日の事でございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらと 

お歩きになっていらっしゃいました。

  この極楽の蓮池は、水晶のような水を透き徹して、三途の川や針の山の景色は 

もちろん、人間世界の様子も、ちょうど覗(のぞ)き眼鏡を見るように、はっきりと 

見えるのでございます。 

 そうしていると下界では、とある川のそばで、一人の修行者が悲壮な顔をして 

苦行をしている姿がお眼に留まり、お釈迦様はどえらく親近感を感じられました。 

そこで地上に降りて覚者の姿となり、修行者にお尋ねになりました。

 「あんさんは、何年ここで苦行をしてんかね」

 「はい、私は三十年もの間、朝から夜まで毎日毎日、ひたすら苦行を続けており 

ます」 

「なかなか感心やな。せやけど、なんでしんどい修行をしとるのかいな」

 「はい、この娑婆は、煩悩と苦悩を味わいながら耐え忍ぶことが前提の世界です。 

私は、ぜひとも今生で悟りを得て、日々苦しみに追われることなく生きたいと願

っているのです」  

 

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 お釈迦様は、またかいなとお思いになり、うーむと眼を細くされました。 

 と申しますのは、世の中の人間は大雑把に分ければ二種類。片方は、如何に生 

きるべきかといった事には殆ど無関心で生きており、もう片方は、人間の生きる 

べき道を知る事に極めて執着して生きております。ここでアイロニー、また不条 

理のように思えますのは、真摯に宇宙の真理や人生の意義などを追究しない者の 

ほうが安楽に、そして愉快に暮らしているように見えることでございます。

  お釈迦様は、苦行者にお尋ねになりました。 

「三十年間も苦行したら、さぞかしええ結果を得ることができたやろ。一体なに 

が出来よるようになりよったんかね」 

 苦行者は、すーっと晴れやかな顔になり、胸を張って答えました。

 「はい、私はどうにか水の上を歩けるようになりました」  

 

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 それを聞いて、お釈迦様は、なかなかたいした奴やないかと思いつつも、こう 

おっしゃいました。

 「あんさんは、オノレを利口な人間や思うかや。三十年も修行せずとも、わずか 

な船賃さえ払うたら船頭が向こう岸に渡してくれたやろ。そうしたら、三十年間、 

もっともっともっと他のことをいろいろ体験できて、もっともっともっともっと 

人間の幅を広げる事も出来よったんとちゃうかね」

  苦行者は「あ、あー」と小さく声を出し、その場にへなへなと座り込んでしま 

いました。長年の苦労が水の泡になったのかと思ったのでございます。 

 しかし人生には悪いことしかないと思えても必ず善いこともあるもので、苦行 

者の両眼には、以前にはなかった明るい光が、かすかではありますが、確かに輝 

き出していたのでございます。  

 

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 極楽の蓮池の蓮は、下界の事には少しも頓着致しません。その真ん中にある金 

色の蕊(ずい)からは、何とも云えない良い匂いが絶え間なく辺りへ溢れております。 

極楽の時間は、いつもまぶしい朝なのでございます。

 

                   

 

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人生の舵取りに失敗した、ああダメだなあ、と強く悔やむことがあるでしょうか。 

一生懸命に生きてきたなら、その人生体験は必ず何か成果を成し遂げたはずです。 

宇宙は完璧で、人間に失敗を与える構造になっていないと思うのはどうでしょう。 

確たる証拠はなくても、愛が世界を支配していると思うのは心地よいものですよ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

※写真は鮮やかな色が好きなんですが、彩度を落として、ほんのりカラーのモノトーン風にしました。 .