これまでのストーリー
月明かりは、日本もアメリカも同じだ。
アメリカの方が自然に恵まれているので、風情はある。
そう言えば、アメリカに行って間もなく、あの月に人間が降り立ったのだ。
三女の誕生日だった。
あれから、五十年も経っている。
明るいので鯊釣りをしてみた。
当たりがある。
鯊も活動している。
美しい月明かりを浴びながら、鯊を釣った。
帰ることを考えていた。
泊さん夫婦の仕事がなくなったので、私自身気が抜けて、何かをする気になれない。
それでトーマスのことを思い出していたのだろう。
泊さん夫婦を不幸にしたのは、金だ。
金に余裕が出来て、泊さんがまたギャンブルを始め、その結果はつさんは顔が腫れ上がるほど殴られた。
多田さんも少ない年金をやりくりして、酒の工面をしていたのに、余裕ができて酒浸りになって体を壊してしまった。
世の中を不幸にするのは金だ。
つくづく、そう思う。
だから、生活保護も役に立つより害になっている。
困っている人に手を差し伸べる。
その行為も、必ずしも役立たない。
私自身、手を貸して喜ばせてあげようと思ったのだが、色々と間違っていた。
生活保護も、もっと有効な使い方があるのだろうが、お役所仕事にそれを望むのは無理だ。
市も払いたくない。
だが、年々生活保護は増えていく。
その年金でパチンコに行ったり、酒を飲む。
ある者は、競輪、競馬に行く。
確かに生活費を与えて、それでギャンブルされたり、酒を飲まれるのは、何のために手を差し伸べているのか分からない。
いよいよ、来年はオリンピックだ。
その河岸のホームレスも追われるかもしれない。
だから、多田さんも石川さんも船で泊まれるところは必要だった。
帰る一週間前に、はつさんとみっちゃんを呼んで、鍋パーティーをした。
はつさん達は、一応、住むところはある。
今の弁当屋の給料で食べることには困らなかった。
はつさんとみっちゃんは、明るいうちに帰って行き、多田さん一人が深酒をして、グデングデンに酔った。
久しぶりに飲んで、酔った。
しつこい。
同じ話を重ねて言う。
そこが酔っ払いのしつこさだ。
私は、競馬に逃げ出した。
石川さんが、一人で相手をしてやる。
夜更けに帰ってくると、二人ともいなかった。
多田さんがいたら、ホテルにでも泊まるつもりだった。
月明かりの中で、船を河口に向けた。
芦原の中は風が吹き抜けて、葉擦れの音がする。
その繁みの間に船を入れると、どこからも見えない。
上からの月の明かり、両側から芦の葉擦れの音。
食べ残しの汁がたっぷり残っている。
その中に、八百屋で買った春菊、小松菜、もやしを洗わずに放り込んだ。
冷えた身体に貝汁は心地よい。
月明かりの下で、ハモニカを吹いた。
聴く人はいない。
音色も芦の葉擦れで掻き消されて、川面に消えていく。
うさぎ追いし かの山
小鮒釣りし かの川
夢は今も巡りて
忘れがたき ふるさと
音色は、寂しい。
ハモニカを口にくわえて、トーマスのことを思い出していた。
前の晩から、やけに鮮明に思い出される。
トーマス、大丈夫だろうか。
そう思うと、胸騒ぎがして早く帰りたかった。
日本を発つ前日は、眠らない。
そうすると、飛行機の中で熟睡出来る。
食事も気にせず眠ると、早く着ける。
そう思い込む工夫をしている。
幸い、隣の席が空いていた。
離陸するのも、覚えていない。
八十才 ホームレス Ⅴ につづく






