人任せにして、物事がうまくいくことは稀だ。
泊さん夫婦に残して帰った仕事は、始めからうまくいかず、多田さんも他人夫婦の間に入ることもできず、放ったらかしにした。
まぁ、私のように強く言わないと収まらない。
私がいなくなったので泊さんは自由になり、はつさんが金を握っているので、その金を当てにして働かない。
仕入れの金まで手を付けて、パチンコに使ってしまう。
はつさんも、このままでは大変なことになるのは分かっている。
必死で拒んでも髪を掴んで引き倒し、金を巻き上げて行く。
腫れ上がった顔で人前には出られず、仕事を休む。
電話代も払えず、電話も切られてしまった。
その上、泊さんが酔って電柱に軽自動車をぶつけて、右側のヘッドライトが故障して、運転出来ない。
はつさんは、バイクで多田さんのところへ行き、お金を借りて自分たち親子の食べ物は買っていた。
金を使い果たした泊さんは荒れて、ガスボンベや自転車も人に売って、ギャンブルをしていた。
そうした頃、多田さんに電話が通じて色々なことが分かった。
はじめに考えた。
泊さん夫婦に任せるのは無理だ。
出来の悪い旦那を持つと、病気よりも始末が悪い。
別れてくれれば、まだいい。
泊さんのように、ダニのように食いついて離れない男は、どうすることも出来ない。
私も二ヶ月早めに帰郷した。
はじめ、泊さん夫婦を手伝ってうまく行き、いい事をしたと嬉しく思っていた。
それが、うまく行かなくなると、私も大変なことに首を突っ込んだことになり、解決方法が見つからない。
きっぱりと縁を切ればいいのだが、はつさんと障害のあるみっちゃんが気にかかる。
私の被害は、仕事だけではなかった。
船の中から金になるものは盗んで金に換えたらしく、投網からガスボンベ、貯金をしていた十円、百円、五百円硬貨は、数えてはいないが三十万円以上はあっただろう。
それも無くなっていた。
はつさんから私が帰国しているのを聞いたのか、私の前には姿を見せない。
私も彼を盗みの罪で訴えてもいいのだが、それくらいの罪では、すぐ釈放されるだろう。
私自身、ぶん殴って叩きのめしたいのだが、それで私が訴えてられるのも馬鹿らしい。
どうにもならない関係だった。
人の世話は難しい。
それが腐れ縁だろう。
泊さんから盗まれなかったら、その小銭で、はつさん親子は充分生活できた。
若い頃から、人の世話をして何度か騙されてきたが、こういう結果になると、何のために世話をしたのか分からない。
はつさん親子は、弁当屋で働き始めた。
給料制だから、その方が金をむしり取られない。
はつさんは殴られ金をむしり取られても、泊さんとは縁が切れない。
長年夫婦だったからだろうが、私もそこまで介入出来ない。
私は船に戻ったが、炬燵からガスボンベまで買わなくてはならない。
事故車は廃車にしたが、日本では金がかかる。
来年には、オリンピックがある。
ホームレスも整理されるかもしれない。
私の船も整理されるかも分からない。
多田さんは深酒をするので、川の中に落ちて溺れる心配があった。
石川さんが泊まることになって、私が帰米した後、使ってくれることになった。
色々あったが船が戻ってきて、元の生活になった。
商売していると自分の生活がなくなる。
私は自分が老ぼれているのに気付かず、多田さんが年取ったと思う。
なんか頭の回転が遅くなった気がする。