M.A. Q18

 難しいわよね、部屋を形容するのって。(EXHALES)簡単に言えば2LDKのマンション。新品の分譲だったわ、越した当時は。

 (LIGHTS HER 5TH CIGARETTE)

 キッチンは結構モダンよ。何でも揃っているわ。ヨーグルト製造機や、アイスクリーマーまであるのよ、一度も使ったことはないけど。収納も充分すぎるほどあるわ。全てが白で統一された空間よ。冷蔵庫も電気コンロもフロアーも天井も壁も。白くないのは私の心くらいかしら。(CACKLES)ねえ、今のは笑うところよ。まあいいわ、そんなに面白くなかったから。(SIGHS)六畳くらいの広さだと思うわ。壁の一部が横長の長方形に刳り貫かれていて、カウンターになってるの。リビングが丸見えよ、その穴から。テレビを見ながらの調理も可能よ。でも、危険よね。私ね、テレビを見ながらジャガイモの皮むきをしていたの。そしたら一緒に指の皮までむいてしまったのよ。痛みよりもショックの方が強かったわ。血がタラタラと流れて、まな板にポトポト落ちるの。流れ落ちる赤黒い液体を見てたらなんだか腹が立って、ジャガイモをテレビに投げつけたの。血しぶきが壁に点々と付着してしまったわ。大変だったわよ、掃除するの。ほら、ここよ。まだ傷が残ってるでしょ。(GIGGLES)駄目みたいね、こういう話。あなた、顔色が悪いわ。

 (EXHALES)キッチンの話をしてたのよね。他に何かあるかしら。あ、ワインラックを置いているわ、キッチンの片隅に。飾りっ気のない木製のやつよ。その横にはルームサービス用のワゴン。四つのカラカラが付いているから、どの部屋にも楽に引いていけて便利よ。掃除をする時以外は動かさないのが現状だけど。ワゴンの銀メッキのトレイにはジンやラム、テキーラやウォッカなんかが乗っかっているわ。

 私ね、料理って嫌いじゃないのよ。暇な時にはたっぷりと時間をかけて料理をするわ。三日以上もシチューを煮込むことだってあるわよ。私の主食は基本的にはパスタ。夕食の際は必ずといっていいほどワインを飲むの。だから必然的にそうなってしまうのよね。だって、米とワインって何だか気持ち悪いでしょ。冷凍庫には製氷皿がたくさん入っているわ。トマトソースやエスプレッソを冷凍保存しておくと便利なのよ。エスプレッソ氷をミルクに溶かせばあ~ら不思議、アイスラテの出来上がり。(CHUCKLES)

 

 

 M.A. Q15

 英語よ。ビルは日本語を話せないわけではなかったんだけど、彼の日本語よりも私の英語の方が数億倍流暢だったもの。ひろ子には幼少の頃からイギリス人の先生がついたいたの。映画も字幕なしで見られるわ。

 M.A. Q16

 ピアノとか、結構高く売れたから。それプラス、ひろ子の貯金で足りたわ。殆ど底を突いた状態になってしまったけれど。でも、心配する必要は全くなかったわ。ひろ子を装ってパパにお願いすればいいんだもの。パパはマンションを買ってくれたわ。それから当面の生活費として一千万をひろ子の口座に振り込んでくれたの。パパもママも知ってるわ、私の病気。お金がなくなるとすぐに送金してくれるの。私は余命幾許もない不幸な女を演じているわ、彼らの前では。実際余命幾許もないんだけどね。(CHUCKLES)笑えないわね。

 M.A. Q17

 分からないわよ、家計簿なんてつける必要もないから。でも、地味な生活よ。月平均で三、四十万っていったところね。半分は酒屋とタクシー会社に注ぎ込んでいるわ。私ね、ブランドに拘るタイプではないのよ。洋服とかバッグ、化粧品なんかのよ。電化製品はSONYって決めているわ。いるじゃない、胸元に大きなロゴが入った服をこれ見よがしに見せびらかして着てる奴。嫌なのよね、ああいうのって。見苦しいわ。人に見てもらいたいのかしらね、やっとの思いで購入した高級ブランドを。(SCOFFS)どうせブランドを着るのなら、ロゴやトレードマークの入っていないやつよね。洋服は人に見せる為ではなく、自分自身の為に着るものなのよ。あなたってそんなタイプの人間よね。その辺歩いていたって、9割以上の一般人はそのスーツが30万では買えないものだとは思いもしないでしょうに。よく似合ってるわ、それ。皮肉じゃないのよ。(GIGGLES)無理に照れなくてもいいのよ、あなたのような男は。いい男ね、本当に。

  M.A.  Q13

 あとは終幕を残すだけ。ヒロシとマリコを恐怖のどん底に落とし入れなきゃ意味がないでしょ。ビルと私は大学へと赴いたわ。私の姿を捕らえた厭らしい視線の数々。「あっ、レイプされた女だ」とでも思っていたんでしょうね。全然気にならなかったわ。だって私は、ひろ子ではなくマリアなんですもの。(CHUCKLES)

 手に包帯を巻いたヒロシと、腕を組んだビルと私の姿を不思議そうに見遣るマリコの姿を、馬鹿どもで混み合った食堂で発見したわ。「久しぶりね。あら、怪我でもなさったの?」彼は何も言えやしなかったわ。数秒間私を睨み付けると、負け犬らしく尻尾を巻いて逃げていったわよ。(DERIDES)「ヒロシの彼女のマリコさん、こちらは私の彼のウイリアムよ」マリコは気まずそうに「初めまして」ってビルに言ったわ。「あなたには言っておいた方がいいわね。あのね、あなたが12回も寝たビルと私はあるウィルスに侵されているの。あの治らないヤツ」観衆がざわめく中、馬鹿女の顔が急激に青褪めていったわ。「セーフセックスしなきゃ駄目よ。ナマでアナルだなんて、もってのほかだわ。汚れた女には豹柄が似合うわね。アア、イクー、コワレチャウー」マリコは交尾を邪魔されたマントヒヒのような形相で私に突進してきたわ。でも可哀想なことに、彼女は指一本私に触れることができなかったの。ビルの大きな手がマリコの頬を思いっきり引っ叩いたのよ。愚かな女は床に倒れて、一人で悲劇のヒロインごっこを楽しんでいたわ。(GIGGLES)

 M.A.  Q14

 マリコはただの通過点に過ぎないわ、ウィルスのね。医学用語で言えば、媒介よ。たっぷりと時間をあげたわ、ゴムなし好きの奴等が何度もセックスできるように。ヒロシは小指を失った代償として、マリコから死の卵を貰ったのよ。(GIGGLES)

 すぐにビルとは別れたわ。利用価値がなくなったもの。計画を実行した芦屋で生まれた女は、故郷を捨ててこの街にやってきたの。「ひろ子ちゃ~ん」って、ブスに呼び止められることもなくなったわ。