司馬遼太郎『胡蝶の夢』(1)~(4) 1983・新潮文庫-幕末・維新の「医」を描く | ゆうわファミリーカウンセリング新潟(じーじ臨床心理士・赤坂正人)  

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 司馬遼太郎さんの『胡蝶の夢』(1)~(4) (1983・新潮文庫)を再読しました。
 本棚を眺めていたら目にとまって読み始めたのですが、すごく久しぶりで、おそらく十数年ぶりです。
 いい小説なのに、じーじの怠慢で、ご無沙汰しすぎです。
 こういういい小説は、年寄りになったら、もっともっと読んで、こころを豊かにしなくてはいけません。反省です。
 さて、この小説、紹介するのはなかなかたいへんです。
 主人公は幕末の医師松本良順。
 千葉・佐倉のオランダ医学所である順天堂の出身ですが、将軍の医師にまでなります。
 その良順が自らオランダ医学を学ぶために、長崎でオランダの軍医ポンぺから西洋医学を学ぶ学校を作るのですが、この小説はそこで学んだ同僚や後輩たちとの物語ということになりそうです。
 特に、幕府一筋の良順と、佐渡出身で語学に異彩をはなち、後に政府の語学者となる島倉伊之助(司馬凌海)、さらに、阿波藩の医師になり、後に官軍の病院長にまでなるものの、戊辰戦争後にやめてしまう関寛斎の3人の生き様が中心です。
 いずれの人物も一筋縄ではいかない個性派ぞろいですが、それを描く司馬さんの目線は温かさにあふれています。
 松本良順は、幕府の形式主義的な官僚を徹底的に嫌い、たくさんの敵を作ってしまいますが、その正義感からか将軍の信頼は厚い人物です。
 なぜか新選組が好きで、戊辰戦争では会津にまで行って、怪我人の手当てに当たります。
 戊辰戦争では良順の長崎時代の同僚である関寛斎が官軍側の医師として参加し、二人は歴史のいたずらに翻弄されます。
 一方、伊之助は、そういう不幸な状況を手をこまねいて見守るしかありません。
 戦争というものが、大義はどうであれ、いかに残酷なものであるかが描かれますし、犠牲になるのは庶民なんだなと改めて考えさせられます。
 結局、良順は戊辰戦争後に新政府に逮捕され、しかし、後日、政府の医学総監になります。
 伊之助は新政府の外国人医師の通訳をつとめ、オランダ語、英語、ドイツ語、イタリア語などを修め、大学教授にまでなります。
 席寛斎は農民に戻り、なんと北海道の陸別に開拓に入り、日本一の寒さで有名な自然の厳しい土地で開拓の基礎を作ります。
 それぞれの生き方がそれぞれに示されます。 
 どさんこのじーじとしてはやはり北海道に渡った関寛斎の生き方に魅かれますが、しかし、お偉方と喧嘩ばかりしている良順の生き方も大好きです。
 こうしてみると、じーじはやはり昔から反体制派のところがあったんだなとつくづく思ってしまいます。
 どんなふうに生きても人生70~80年。それならば自分に正直に、後悔のないように生きたいなと改めて思います。
 じーじにも勇気をくれる、心地よい、いい小説でした。      (2019.3 記)