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警視の笑い声がひびき、
「また変な声がしたぞ。さっき聞いたやつだ。課長、腹話術ですな、これは。つくづく変な信用できぬ御仁だ。
さあ、もういい。なぜ殺ったか、自分でいいなさい。腹話術でもいいですよ、課長。いいなさい」
「殺した?私が?この方を?馬鹿な」
課長が弱々しく声を漏らすと、警視が、叱責する大声でどなって、
「白状するんだ!ここに死んでいるこの男は、なぜ、どうやって、死んだんだ!」
と、驚いたような声が、それに答えました。
「何?死体?わしのことか!?
わしが死体か?
死んでないぞ、わたしゃあ死んでない!勝手に死体にするな!」
ベッドの上の初老の男でした。意外なほど元気に体を反転させ、仰向けになって叫んだのです。
「!」
一同、驚き、ベッドの上を凝視。
「死い~んでない、死んでない!いったい誰がわし殺した?」
仰向けになって手足をばたつかせ、嬉しそうに歌うように、初老の男が叫ぶのです。
「何だ、これは」
警視が不愉快そうにいった。
「さてはしくじったか?SPともあろうものが。担当はあいつだったな」ぶつぶつと人の名前を口にしました。
そんな警視や、あっけにとられるその他の連中のことも無視して、初老の男は語りはじめました。
「しくじった?そうだ、しくじり。アメンボ人生(※1)のしくじりしゃ。
おいかけていたら、いつのまにか、背中からおいかけられる、まわりをアメンボに囲まれる。
昨日は、わしが囲むアメンポの大将だったものが」
初老の男は、ゆっくりと起上がり、
「この国は、アメちゃんに脅されて、国開いたが、開いた最初の頃から、金に汚かったよ。
国の偉い奴が、商売人とつるんで、国家予算の大半を生糸相場にぶちこんじまったこともあったそうだ(※2)、
はじめからそうだったんだ。あとは軍艦をつくるにも、鉄道をつくるにも、道路をつくるにも、航空機買うにも、会社を買うにも、
水増ししてピンハネし、裏でお礼をもらってきたのじゃ、背後にはアメちゃんから交代したエゲレスがいて、開国のときと同じに脅され言いなりになって、
そいで、金のわけまえをもらうのだ。
戦後はまたアメちゃんになって、最近でも同じだ、ビルをつくるのにも同じことじゃ」(※3)
ベッドからゆっくりと降り立ち、変なダンスのような身振りで、ぱくぱく口を開き、なおも続けて、
「見つからなきゃいいんじゃ、見つける側にいて、アメンボみたいに追いかけ、囲んでりゃあいいんじゃ、簡単なんじゃ・・・・」
「大臣!」
警視がたまりかねて叫んだ!
しかし、大臣と呼ばれた初老の男は、かまわず、
「構造汚職、複合汚職、条約汚職、国際汚職、外交汚職、戦争汚職、建設汚職・・・・」
念仏唱えるように喋り続けていたのです。
・・・・つづく
おまけ
今回の文章は、背景がわかりづらいと思いますので※1~※3について補足させていただきます。
※1 「政治家の政治人生とは、アメンボ人生です」(中曽根康弘元総理大臣様談)を参考とさせていただきました。
※2 明治政府が野村某なる商人のせいで、国家予算の半分程度を生糸相場につっこんで大損した事件。山縣有朋氏も関与。野村
某は切腹させられた。司馬遼太郎氏の本にこんな話が事実としてでてたのを引用しておりますが。司馬遼太郎氏も最近評判
わるいですから、その記述もホントかどうかわからん。結局わたしどもは本とかSNSでしか知識を得られない、本とかSNS
に書かれたことがホントだという保証は全くありません。ご注意ください。また山縣有朋氏といえば会計検査院を思い出し
ます。会計検査院には仕事でよく行かされたのですが、山縣有朋氏は、会計検査院の創立に深くかかわったとか。会計検査
院も注意してかかわらねばなりませんですね。
※3 鎖国日本は米国によって開国させられましたが、その米国は、英国によって仕掛けられた南北戦争のせいで日本支配どころ
ではなくなり、日本は英国の属国として英国の指導により天皇制その他の近代国家整備を実施していった。姿見せぬ英国の
属国=疑似独立国として戦争国家になって、やがて覇権交代(英国→米国)から戦後は日本は米国の属国になった、との見
方に基づきます。しかし現在、米国は分裂の方向に向かっており、世界覇権は、いやいやながら中国が継承させられるとの
見方もあるようです。
そこで中国。春秋時代(この映画とは関係ないけど孔子やブッダが
いたのと同時代)500年も続いた戦国時代が舞台の日本映画「キングダム」です。
この映画はおもしろかった!全編クライマックスって感じ。
大迫力!大感動!日本映画を見直しました。食わず嫌いはやめて
最近の日本映画に注目せねばと思いました。
大将軍王騎を演じた俳優、大沢たかお氏は名優といっていいのでは?