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「え?」
美男刑事が聞き耳をたてました。
「課長、何とおっしゃいました?昨日、朝倉さんが部長と・・・?」
「え、はい。そうです、昨日、朝倉さんは、部長と、神田のホテルに」
「ホテルに・・・しけこんだ。ラブホテルですか?」
美男刑事は思わず懐からメモを出し、
「は、はい」
という課長の返事を聞き、刑事はメモに書きつけながら、首を横に振る。
「ということは、昼間の聞取りのときの課長様のご発言は、嘘だったのですね」
「嘘・・・」
「部長に女性関係はない、神田では熱田くんと飲んだだけ、と語られたでしょう?」
「まあ・・・」
「まあ、って曖昧な・・・」
「つまり偽証なのだなあ」警視があきれた、というようにいう、
「信用できない御仁だ」
「まってください、これには事情が。つまり私も宮仕えの身でして、何もかもすぐにいうわけには・・・」
「何かをおもんばかって、いわない」
警視は課長の目を見る、課長はうなずく、警視はまた首を横に一回振る。
「それがまさに偽証です」
課長は全身の力が抜けました。その様子にかまわず、警視が。
「不倫とかなんとか逞しい想像なさったんでしょうが、全然、違う。朝倉さんは、一種の捜査協力をしていたのでしてね、
で、そこに、あなたと関係のあった可愛い部下の危険思想の若い男がですねえ・・・おっと、まあいい。それは、まあ、いい・・・」
「よくないですよ!何の話です、そっちこそ、そんな曖昧な」
課長は警視につかみかかった!
警視は暗い表情になり、課長の手をゆっくり掴んだ。やさしげに見えて、その手には一種の凶暴な力がこもっていた。
「公務執行妨害。課長さん。こちらは警察でしてね、捜査上、曖昧も許容される。
こちらからいうのではなく、こちらは曖昧なまま、課長ご自身から、おっしゃってもらう。そういう権利があるんです。それが公権力ですな。
・・・で、少し本題に入りますが、あのベッドの上の方」
警視はうつぶせの初老の男をあごで指しました。
「課長。なぜ、あなたは、あの方を殺したんですか?」
いよいよ返す言葉もなかった。
おかしい。この連中はおかしい。こいつらが、警察のわけがない。これは、どういう陰謀だ?
凍りつく思いでいると、またいつか聞いた、伝導音の声。
- 違うんだ、おかしい連中ではない。警察だよ、課長。これは警察そのものだ・・・
・・・・つづく