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「はい」
「何をです?」
「申し上げにくいことをです、私の知っている、課長に関する申し上げにくいことを、すべて、です。
ここの刑事さんたちにね、申し上げたんです」
「朝倉さん!」
美男刑事が割って入りました。
「そんなこと、いっちゃいけません。証言者には、どんな危害が加えられるかわかりませんから」
朝倉は首を横に振り、
「いいえ、いいんです。危害っていったって、この課長から、どんな危害がくるっていうんです」
と言って、また課長を乱暴に指差しました。
「背後に、どんな奴等がいるか、わかりません」
と、美男刑事が叫びました。
「そ・・・そうだ・・・よ」回転数狂ったテープの声が同意し、
「そうよ、ボクもそう思うよ!」と、白痴少年の嫌なキンキン声が続きました。
「僕らも、やられちゃったんだから、こいつに」
「やられた?」課長は否定し、「とんでもない、殺られそうになったのは、こっちだ。刑事さん、さっき、いったでしょう、
私の首に刃物をたてて殺そうとした奴がいるって!
そいつらですよ、刑事さん、そいつら、逮捕されて、そこにいるんじゃないんですか?」
ははは、と愉快そうな警視の笑い声が響きました。
「いや、課長、頓狂なキャラをよそおって、あんた意外に嫌な役者だね、さっきの熱田君との会話の件といい・・・」
課長は口を大きくあけて、
「熱田!そうだ、熱田くん、隣の部屋のあれはいったい。あれは熱田くんの・・・」
「首だ」
「そ、そうでしょう、残酷な。誰がいったいあんなにしてしまったんだ」
「熱田自身だよ」
「そんな、馬鹿な、自分で自分の首を切り離せるか」
「装置があれば、やれるのさ」
警視は悲しそうな目をして、
「とんでもないものにとりつかれて、自分でやったのさ。よくやるよ。やっぱり危険思想なんだ。そして、あんた・・・」
哀れむような目で課長を見ました。
課長はいいました、「熱田くんは電話してきた、確かにケータイで僕としゃべってた、これは本当だ」
「狂人の危険思想だよ・・・」と、警視はうんざりした顔。
「課長・・・・」
ふたたび、朝倉課長が、ゆっくりと口を開きました。
「何もかも、わかってしまったのよ、刑事さんたちに。私が証言しました。課長と、部長、そして、熱田くんの、関係・・・」
首を横に振り、救いようもないわね、という、その表情・・・
「君・・・」
さすがの課長も、何か反論せねばいられない気になり、
「朝倉さん、何だその顔は?何だか知らないが、とんでもない勘違いをしている、
き、君こそ、昨夜、部長と、何をしていたんだ?」
・・・・つづく