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わかったよ、ぶおおお、は、わかったよ。課長は床にうつむき頭をかかえました。
警視は嫌な薄ら笑いをうかべ、
「怪しい声がする・・・」
といって、また、ほくそ笑み、
「怪しいぞ課長。課長殿、そろそろ起上がったらどうだ。さあ、立ちなさい」
なおも課長が下を向いたまま、むずかっていると、別な、金きり声が叫びました。
「はやく、来いよ!」
これも聞いたことのある声。白痴の子供みたいな、頭に錐を刺された気分にさせられるような、うんざりする声。
「さあ、立ち上がって、正直に対応しなさい」
いいながら、警視は課長の腕をつかみ、引きずり起しました。
そして、さあ、行け!と背中をどんと押しました。
課長はフラフラと、押された力の惰性で、隣室へ。
その隣室には見覚えのある人々。その一人が、
「あら・・・」
その女性!
「ああら、課長!」
課長は目の前でフラッシュを焚かれたかのように目をしばたたきました。その女性は、不敵な笑みを浮べました。
「朝倉さん・・・」
課長はそういい、間の抜けた顔をした。
「どうして、ここに・・・?」
「どうしてって?いちゃあいけません?」
「いてもいいですよ、心配してたんですから。入社以来はじめての欠勤で」
「それはどうも。ご心配いただき、申し訳ありません」
軽く頭を下げる彼女のまわりの見覚えある人々が、やっと課長の目に認識されました。
あの美男刑事、そして、居酒屋の裏路地で課長を襲った変な二人づれ。
ベッドの上には、初老の男、ロビーで出会ったあの初老の男が、死んだようにうつぶせになって横たわっていました。
背後から警視が声をかけつつ、寝室に入ってきました。冷たい目で課長をにらみつけながら。
「この部屋はいったい・・・みなさんは、ここで、何を・・・?」
「顔見知りの方が多いんじゃありませんか?」
吐いて捨てるように警視がいいます、
「特にこちらの女性なんか、よくご存知でしょう?」
「あ。あは、はい、もちろん、こちらが、あ、朝倉課長です」
課長はまだ驚いていました。
と、朝倉が叱るような口調で、ぴしゃりといいました。
「課長!」
「へ?」
課長はまた驚いて声をあげる。朝倉は課長を指差し、続ける。
「申し訳ありませんけど、全部、申し上げちゃいましたからね」
「全部?」
・・・・つづく