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「誰に?誰にやられちまった?やられちまったのに、なぜ話してる?」
―それがゴーストエアーでしょ? ・・・
私はメンタル障害社員。とてもおかしな欠陥社員。
ときどき、何もかも恐ろしく、何もかもが許せない。
本当に許せない、全部変えなきゃ許せない。
すると、ますます、おかしいメンタル、メンタルが狂っちまう・・・
こんな思いがはじまったのは、いったい、何時の頃からだ?
それは、きのう今日じゃない、生まれる、ずっと前からだ。
一千年も前からだ。
そこにあるのは僕の首、はるかな昔にはねられて、悔しさと憎悪に燃えて、漆黒の時空を飛んできた、
それはそんな僕の首。僕はそういう、歴史の首だ・・・-
「・・・?」
-ホラホラ、それが僕の首だ、はるか昔の大昔、やられちまった、僕の首だ。
ヤアヤア課長、まだ目が覚めぬか、まだ目覚めないのか課長殿。
目覚めよ課長!
もういいかげん、目覚めて起きろ課長君、闇を切り裂き起きあがれ!-
「熱田!何をお言いだ?」
電話の向うの熱田の声は、まだ熱っぽく語り続けていました。
しかし目の前の熱田の首は、もちろん何ももの言わぬ生首、微動だにしない、死の静物。
と、課長は何者かによって背後から突き飛ばされた。
前のめりにころび膝をつき、手にしていた携帯は床に落ち、カラコロと転がった。
「何をひとり芝居やってんだ」
背後から罵倒された。
「結局、あなたの行動は、全部、筒抜けだったんだ」
続いて背後に溜息が聞えました。
「課長、危険思想はよくないよ。そんな一人芝居する人は、危険思想と思われるよ。
熱田から電話だって、さっき言ってたが、熱田はそこにいるだろう?
かわいそうに、熱田くん、首だけそこにいるだろう?
切られたナマ首が電話するわけないだろ?」
課長が振り向くとそこにあの警視がいました。
「念のため、君を泳がせて、全部、防犯監視カメラで見てたんだが、熱田なんて出てこなかった、
ただ課長殿は、ときどき、携帯にかじりついてただけだ。
幻聴と話してただけだろ?その幻聴が聞えるというのが、危険思想になっちゃうよ」
うすら笑いする警視。
「君も大臣のようになりたいか」
課長は無言。警視がたたみかける。
「なりたいんだかね・・・」
課長が黙ったままでいると、警視とは別の変な声が聞えました。回転数の狂ったテープのような変な声。
「ぶぶぶ、・・・か、課長、電話の向うから、いったい何を・・・聞いていたんだかね。やばいよ課長、よろしくない・・・よ、ぶおおおー」
その声は、隣の寝室のほうから聞えてくる。沈没間際の豪華客船の汽笛音。
「ぶおおおお・・・・」
・・・・つづく