大手町のゴースト2024 56 沈没間際の豪華船 | 新庄知慧のブログ

新庄知慧のブログ

私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

56

 

 

 

 

 

 

「誰に?誰にやられちまった?やられちまったのに、なぜ話してる?」

 

―それがゴーストエアーでしょ? ・・・

 

私はメンタル障害社員。とてもおかしな欠陥社員。

 

ときどき、何もかも恐ろしく、何もかもが許せない。

 

本当に許せない、全部変えなきゃ許せない。

 

すると、ますます、おかしいメンタル、メンタルが狂っちまう・・・

 

こんな思いがはじまったのは、いったい、何時の頃からだ?

 

それは、きのう今日じゃない、生まれる、ずっと前からだ。

 

一千年も前からだ。

 

そこにあるのは僕の首、はるかな昔にはねられて、悔しさと憎悪に燃えて、漆黒の時空を飛んできた、

 

それはそんな僕の首。僕はそういう、歴史の首だ・・・-

 

「・・・?」

 

-ホラホラ、それが僕の首だ、はるか昔の大昔、やられちまった、僕の首だ。

 

ヤアヤア課長、まだ目が覚めぬか、まだ目覚めないのか課長殿。

 

目覚めよ課長!

 

もういいかげん、目覚めて起きろ課長君、闇を切り裂き起きあがれ!-

 

「熱田!何をお言いだ?」

 

電話の向うの熱田の声は、まだ熱っぽく語り続けていました。

 

しかし目の前の熱田の首は、もちろん何ももの言わぬ生首、微動だにしない、死の静物。

 

と、課長は何者かによって背後から突き飛ばされた。

 

前のめりにころび膝をつき、手にしていた携帯は床に落ち、カラコロと転がった。

 

「何をひとり芝居やってんだ」

 

 背後から罵倒された。

 

「結局、あなたの行動は、全部、筒抜けだったんだ」

 

  続いて背後に溜息が聞えました。

 

「課長、危険思想はよくないよ。そんな一人芝居する人は、危険思想と思われるよ。

 

熱田から電話だって、さっき言ってたが、熱田はそこにいるだろう?

 

かわいそうに、熱田くん、首だけそこにいるだろう?

 

切られたナマ首が電話するわけないだろ?」

 

課長が振り向くとそこにあの警視がいました。

 

「念のため、君を泳がせて、全部、防犯監視カメラで見てたんだが、熱田なんて出てこなかった、

 

ただ課長殿は、ときどき、携帯にかじりついてただけだ。

 

幻聴と話してただけだろ?その幻聴が聞えるというのが、危険思想になっちゃうよ」

 

 うすら笑いする警視。

 

「君も大臣のようになりたいか」

 

課長は無言。警視がたたみかける。

 

「なりたいんだかね・・・」

 

  課長が黙ったままでいると、警視とは別の変な声が聞えました。回転数の狂ったテープのような変な声。

 

「ぶぶぶ、・・・か、課長、電話の向うから、いったい何を・・・聞いていたんだかね。やばいよ課長、よろしくない・・・よ、ぶおおおー」

 

その声は、隣の寝室のほうから聞えてくる。沈没間際の豪華客船の汽笛音。

 

「ぶおおおお・・・・」

 

・・・・つづく