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「みんな暴走族?目撃者はいないのに、そこは、わかるんですか」
「ああ」
「どうして。証拠でもあるんですか」
「わかるんです」
「理由は・・・」
警官は、また黙秘権を行使した。
不愉快そうな沈黙のあと、「傷にさわるだろう、安静にしていろよ」と心にもないことをいって、また黙り込んだ。
私がパトカーで運び込まれたのは、あの、マリがかつぎ込まれた横浜中央病院だった。
病院に私を引きわたすとき、警官たちは私に向かって、また諭すような重々しい、いい方で、
「では、いいですね。これでわれわれは行きます。後日また、何かおたずねするかもしれません。
今日のところは、これで。お大事に。くれぐれも、お大事に」
私はまたうんざりして、
「ええ、ええ。私のための発砲ですから。大事にします。
決して警察を批判したりしません、大丈夫です、大事にします」
私のこのいい方は、また警官たちの気にさわったらしい。
彼らの目が、一瞬、火を噴いたように感じた。
そうして、二人の警官は、以後の手続・・・今回の発砲に係る事後処理
・・・本当に気の毒なことをしたが、本当にやむをえないことであり、警察に非はなかったとする処理のことを、
きわめて事務的に説明し、それからきわめて軽い会釈をして、その場を去った。私はまんじりともせず、肩をすくめて二人を見送った。
・・・
「・・・大丈夫ですよ。三日もすれば、もと通り歩けるようになる」
初老の、小柄で、優しそうで、しかし、万事にやる気のなさそうな医師が、
おおざっぱな大腿部治療を終わって、ベッドに横たわる私に、いった。
何がおかしいのか、始終、笑みを顔から絶やさなかった。
「ところで、ちょっと、靴下をぬいで、足の指のあたりをみせてもらえませんか」
と、医師は妙なことを、いった。
いわれるままに、素足を医師に見せると、それを観察し、「大丈夫、これなら、当分、大丈夫」といって笑った。
「何が大丈夫なんです」
「水虫です。私は、専門でもないのにそちらの研究もしていまして、むしろそちらに関心が深くて。
ちょっと、足の皮を、ほんの少し、いただけませんか。標本にするのですが」
私が許可すると、医師はピンセットで、足の親指の、剥がれそうになっていた皮をとって、大事そうにシャーレへと移した。
私は、ばかばかしくなった。
マリの担当だったアル中医師といい、この医師といい、ピントはずれで、どこかいかれていると思った。
診察室を出て、私は足をひきずりながら廊下を歩いた。
確かに歩行に大きな障害はないが、三日で良くなる傷とも思えなかった。
しばらくは、リハビリの日々か。
とにかく、タクシーでもひろって、乗り捨ててきた自分のクルマのところへ帰ろうと思った。
・・・・つづく
