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私はいい、軽く会釈した。トミオとブルームは、ゆっくり弔問客の席へ移動した。
・・・ここには、いろんな方がお見えのようです。
私は、ブルームの言葉を口の中で繰り返した。そうして、狭い部屋の中を見回した。
ヒロエの死を悼んでやって来た人たち・・・。
しかし、ここには、いろんな人がいる、か。
私はミミクソに小声でたずねた。
「母さんの、一番の親友は、この中の誰だい?」
ミミクソは、目を細めて答えた。
「いねえ」
「いない?」
「ああ、ここにはね。一番の親友は、洋子さんていうんだ」
「同じ、学園出身の人・・・」
「ああ。何かと話し相手になってた。一番の親友だったと思う。
けど、案外、薄情な奴だったのかな。来てねえ。
水商売の人だから、こういうところは苦手なのかな」
「水商売。来ていない。しかし、その人が、一番の親友」
「ああ」
・・・いろんな人が来ているのに、肝心な人が来ていない。
「その、洋子さんのお店、場所は知ってるかい?」
「関内だよ。カクテルバー。リキシャマンて名だ」
そのとき、玄関口で騒々しい音がした。
誰かがドアを乱暴に叩き、うめき声をあげて、転がり込んできた。
狭い部屋の中に、ひしめくようにして座っていた弔問客たちが、いっせいに玄関口を見た。
若い坊主も驚き、経を読む声が途絶えた。
玄関口には、背の高い、縮れた髪の、肌の黒い男が座り込み、肩で息をしていた。
ハーフ・ブラックの佐瀬だった。
犬を連れていた。おとなしそうなシェパード犬だった。
「なんだ、お前か」
加藤社長が、佐瀬をにらみつけて、いった。
「また、飲んでるな」
加藤社長の声が耳に入らないのか、佐瀬は土間に座り込んだまま、うつむいていた。犬もまた無言だった。
私は佐瀬のそばに行き、焼香でしたら、こちらへどうぞ、と祭壇を指さした。
「焼香、か」
佐瀬の声は弱々しかった。
また人の死に接した悲しさを酒で紛らせ、紛らせきれずに苦痛にあえいでいる様子だった。
若い坊主が、中断した経をまた読み始めた。
佐瀬は経に聞き入ってでもいるように、しばらくじっとしていた。それからゆっくりと顔を上げ、私を見て、
「お前、どこかで会ったな」
佐瀬の目は焦点があっていない、壊れた眼鏡のように見えた。
・・・・つづく
2026年8月6日、やっと、広島にいってまいりました。
平和式典に参加、平和記念資料館をみて、横川シネマで、柄本明さんらの朗読劇「父と暮せば」みてまりました。

