新庄知慧のブログ

新庄知慧のブログ

私のいろんな作文です。原則として3~4日に一度投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

94 

 

 

 

 

 

 

私はいい、軽く会釈した。トミオとブルームは、ゆっくり弔問客の席へ移動した。

 

・・・ここには、いろんな方がお見えのようです。

 

私は、ブルームの言葉を口の中で繰り返した。そうして、狭い部屋の中を見回した。

 

ヒロエの死を悼んでやって来た人たち・・・。

 

しかし、ここには、いろんな人がいる、か。

 

私はミミクソに小声でたずねた。

 

「母さんの、一番の親友は、この中の誰だい?」

 

ミミクソは、目を細めて答えた。

 

「いねえ」

 

「いない?」

 

「ああ、ここにはね。一番の親友は、洋子さんていうんだ」

 

「同じ、学園出身の人・・・」

 

「ああ。何かと話し相手になってた。一番の親友だったと思う。

 

けど、案外、薄情な奴だったのかな。来てねえ。

 

水商売の人だから、こういうところは苦手なのかな」

 

「水商売。来ていない。しかし、その人が、一番の親友」

 

「ああ」

 

・・・いろんな人が来ているのに、肝心な人が来ていない。

 

「その、洋子さんのお店、場所は知ってるかい?」

 

「関内だよ。カクテルバー。リキシャマンて名だ」

 

そのとき、玄関口で騒々しい音がした。

 

誰かがドアを乱暴に叩き、うめき声をあげて、転がり込んできた。

 

狭い部屋の中に、ひしめくようにして座っていた弔問客たちが、いっせいに玄関口を見た。

 

若い坊主も驚き、経を読む声が途絶えた。

 

玄関口には、背の高い、縮れた髪の、肌の黒い男が座り込み、肩で息をしていた。

 

ハーフ・ブラックの佐瀬だった。

 

犬を連れていた。おとなしそうなシェパード犬だった。

 

「なんだ、お前か」

 

加藤社長が、佐瀬をにらみつけて、いった。

 

「また、飲んでるな」

 

加藤社長の声が耳に入らないのか、佐瀬は土間に座り込んだまま、うつむいていた。犬もまた無言だった。

 

私は佐瀬のそばに行き、焼香でしたら、こちらへどうぞ、と祭壇を指さした。

 

「焼香、か」

 

佐瀬の声は弱々しかった。

 

また人の死に接した悲しさを酒で紛らせ、紛らせきれずに苦痛にあえいでいる様子だった。

 

若い坊主が、中断した経をまた読み始めた。

 

佐瀬は経に聞き入ってでもいるように、しばらくじっとしていた。それからゆっくりと顔を上げ、私を見て、

 

「お前、どこかで会ったな」

 

佐瀬の目は焦点があっていない、壊れた眼鏡のように見えた。

 

 

・・・・つづく

 

 

 

 

 

2026年8月6日、やっと、広島にいってまいりました。

 

 

平和式典に参加、平和記念資料館をみて、横川シネマで、柄本明さんらの朗読劇「父と暮せば」みてまりました。