大手町のゴースト2024 61 遠い国の出来事 | のむりんのブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

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警視は諭すように、

 

「大臣。あなたはその汚職に鉄槌を下すべく、行動し、自らを罰する偉業に取り組まれたのだ」

 

・・・とってつけたように意外に真面目な顔、

 

「そして遺書を書かれた、そして、もう安らかに旅立たれた」

 

「遺書!」大臣は目をむく。

 

「あの頭取も、あの大臣も、あの部長も、みんな書かされた、走り書きのメモのような?

 

たかがビルのことで、わしが遺書?

 

表向き国の業者、実はアメちゃんを伝票だけが通過して金とられて、また下請け業者に丸投げして、

 

全部偽装建築の高層ビルだ、まるでマンハッタンになったよ、

 

しかし、このマンハッタン計画で、アメちゃんもわしも、ちょっと儲けただけのことで。

 

しかも、本当は君、儲けは全部、君らの・・・」

 

  警視は大臣の言葉を強く遮った。

 

「あなたはそれに鋭い鉄槌を下されたわけです」

 

「それって、君、それとは何だ、それに鉄槌って?それのこと、いっていいのか・・・」

 

警視は面倒くさそうな顔。その場に居合わせた連中は、ただ冷たい視線で、警視と大臣のやりとりを見守っていました。警視がいいました。

 

「もう、いいでしょう」

 

「何が!?」と大臣。

 

「結果は同じだろうさ」そういって、警視が目くばせしました。

 

鈍い破裂音がして、雷にでもあたったように、びくりと大臣の体がはじけ、ドタリ、と床に倒れました。

 

嫌な白痴少年の笑い声が、ひくひく、しゃっくりのように漏れました。

 

彼は手に銃を持って、だらしない笑顔で立っていました。そして得意げに、銃を頭の上のほうに持ち上げた。

 

またか。また銃だ。人殺しだ。なんて嫌なことばかりだ。課長は床に倒れた大臣を悲しく見下ろしました。

 

「課長!」

 

  朝倉が呼びかけました。

 

「課長、どうなさいます?」

 

  課長は無言で朝倉のほうを見ました。彼女は首をかしげて人を小馬鹿にした表情。その表情が豹変し、命令口調で、

 

「なぜ大臣殺したのか、遺書、書きなさいよ!」

 

「メモ紙の上に、走り書きでかね」警視が、これまた人を小馬鹿にした表情をします。

 

何をいっているのかわからない。頭のおかしい連中だ。この朝倉も、こいつらのグルか。

 

考えながら、それが遠い国の出来事であるかのように、課長は無表情でした。

 

警視は朝倉に尋ねました。

 

「遺書ばっかりあっても、信憑性はどうなる?どういう話になるんですか?」

 

朝倉はまるで警視の上司であるかの口調で、

 

「この課長は、小心者なのに欲張りで、汚職のわけまえにあずかろうとして、

 

熱田を使って部長を殺し、部長から聞き出したこのホテルにやってきて、まさかそれが大臣とは知らずに、

 

汚職の秘密を知っているからと、柄にもない恐喝をやろうとした。

 

・・・・つづく