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-実は、課長の状況は、私、ぜんぶ、見えています-
「なに?」
-丸見えです。先も見えます。課長、もうすぐ殺されます。嘘でもいいから、何か白状しないと、殺されます、そう思います-
「・・・」
驚き、言葉がでないでいると、刑事が「熱田」という名前に反応して、課長をのぞきこんでいました。
警視も腕組みして、ことのなりゆきに興味をもった様子。
-でも嘘も思いつかないでしょう、課長。私が助けます。これ、私からの電話だと、目の前の悪党どもにいってやってください-
「はい?」
じれったくなったか警視が課長に訊ね、
「電話の相手は?」
いってやってください、という強い熱田の声。課長はそれに突き飛ばされたかのように声をあげました。
「熱田!私の部下です」
「熱田?」かの美男刑事が驚き、「馬鹿な。課長さん、嘘をいっちゃだめだ」
「いえ本当です。この声に間違いはない」
「そんな馬鹿な」
繰り返す刑事に向って、警視がふてくされたようにいう。
「ふん、そうか熱田か。課長の部下か。どういうことだろうね。まあいい、何の用件だね、話を続けなさいよ」
課長は携帯にかじりつく。
「熱田くん!それで、用件は?」
-真実を暴露する-
「は?」
-その連中こそ真の警察です-
「真の警察?」
-国家が生み出した、国家に奉仕する、国家のための警察、みんなが作り出した怪物の警察。
話せば長くなるが、中身は簡単な話。共同幻想が生み出した現実の暴力装置。
しかし僕はこれに対峙する、新しい何か-
「熱田くん。君、やっぱり、おかしい。大丈夫か」
-課長!そいつらに、いってやってください、僕は生きているって。生きているから見にこいって。そして書類はそこで渡してやるって-
警視が怒鳴る、「何だといってるんだ、熱田くんは?」
「生きているって。生きているから見に来いって、そこで書類は渡すと・・・」
と、課長は熱田の言葉を反復しました。
「ふん」警視は吐き捨てるように、「どこに行けばいいんだ?」
・・・地獄だよ
と、また、あの、課長の内なる伝導音声・・・。
・・・つづく