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「・・・・」
「誰だと思います?」
「さあ。あ、いや。奥様でしょう、きっと。それしかないでしょう」
「それが、違うんです。本当にご存知ありませんか?」
「ありません」
「そうですか・・・じゃ、私のほうから、ずばり言わせてもらいますが。朝倉さんですよ、課長」
刑事は課長の目を覗き込みました。課長の目には狼狽の色がありありでした。
「朝倉って、・・」
「ご同僚の課長さんとうかがってます」
「仕事の打ち合わせか何かかな・・・」課長は精一杯、とぼけます。
「かもしれません。ビジネスホテルでね、会談なさったようで。
しかしそのホテルは、神田○○ホテルでして、色々のビジネスに使えるらしい。課長、そのホテル、ご存じありませんか」
「名前なら知ってますよ。でも色々のビジネスというのは、どうも何のことだか・・・」
「例えば恋愛」
「・・・」
「課長、部長はですね、その○○ホテルで亡くなったんです」
やっぱり、と課長は思ったが口には出さなかったのです。しかし顔にでてしまっていたのではないかと思い不安になる。
「何かそういう噂はなかったのですかね、大変失礼ですが、部長と朝倉さんに」
「いいえ、ぜんぜん・・・」
「朝倉さんは、今日は無断欠勤だったそうですね、入社以来はじめての。その後、連絡はとられたでしょうか?」
「いいえ。それは、私のほうでも心配しているんです」
「課長」
「は?」
「何も隠してはいらっしゃいませんよね・・・?」
「もちろんです・・・」
課長の声は少し力がなかった。車の外には、次々に新築され、天を突きそびえたつビルたちの姿が突然に見えてきました。
星ひとつない漆黒の夜空に向けてそそり立つ、それら人工の断崖には、ほとんどの窓という窓に、星にも優るキラキラの、無数の光が輝いていた。
その光はさまざまな色。エメラルド、レモン、レッド、ブルー・・・
ぴかぴかと瞬いて、瞼を突き刺し目にしみる。
それら光の間を、より眩しい真っ白な光を点滅させて、ビル壁に露出したエレベータたちが移動していました。
「きれいですね」
刑事がぽつんとつぶやいた。
・・・・つづく