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「いや、その。私も事件の容疑者の一人と思っていたものですから、いや、しかしあんな連中が警察のわけがない、いや失礼、
いや助けてもらって本当にありがとうございます。まったく、刑事さんのおかげで・・・」
・・・助かった。しかし、頭が少し冷静になると、新たな疑問が浮んだのです。
この刑事、「たまたま」ここを通りかかったという。そんな都合よい偶然があるのか?
「どうしました?」
課長の会話の不自然な「間」を見逃さずに刑事はたずねました。
「いえ。本当に助かりました。ありがとう。しかし一体あの連中は何者なんでしょう」
「金品を要求されましたか?」
「まあ、そのようなものを・・・」
「そのような。何です。課長さん、どうも発言に曖昧さがありますねえ、昼のときから」
「失礼。書類です。会社の書類・・・」
「書類・・・」
刑事の目が光りました。課長は、例によって、「汚職」云々をいうのは躊躇しました、
「ええ。ただ何の書類かわからない、ただ、「書類」を出せと。どうも頭のおかしな連中です、しかもいきなり切りつけてきて・・・」
「その書類とやらに、本当に、お心あたりはないんですか」
「ええ、ないです・・・」
また気まずい「間」。刑事は課長の顔を覗き込みしばし沈黙しました。そして、
「とにかく、少しお話をうかがわせていただきたい。こんな夜分に大変申し訳ないですが、事情が事情です。お宅の身の上も安全かどうか不安です。ちょっと同行願えませんか」
「え。ええ、まあ・・・・」
「お時間はとらせません、すぐ近くの交番でうかがいます。・・・それに、私も課長にご相談したいことがあったのです」
「私に、相談・・・何のことです?」
刑事は声をひそめました。
「実は、私は昼の捜査以降、今はもう非番です。私的な友人と食事がすんで、帰ろうと思っていたところです。
しかし、どうも、妙なことが私に起こっていまして、帰ったものか迷い、ここらを歩いていたんです、
そうしたら、課長の遭難現場に遭遇したものですが・・・」
刑事は背後をあごでかすかに指しました。
「実は私も、どうやら尾行されているらしい・・・」苦笑いし、軽く肩をすくめました。「見えますでしょう?あれはひょっとして、課長のご命令でしょうか」
刑事の背後5メートルほどのところの電信柱の影から、黒い人影がちらりと見えました。
女性。
派手派手しい髪型。見覚えがある姿・・・
・・・・・つづく
音楽が添付できるようになりましたね!
とりあえずこれ。いきます。
ブレヒトの三文オペラの中の曲。
これをドアーズもやってるわけです。
ドアーズのアルバムでは、次にこの大ヒット曲が続きます。