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するとあたりは静謐な雰囲気になりました。
そして音楽がきこえてきました。
「戦場のメリークリスマス」のテーマような音楽だったと思います。
その音楽につられて、ヘルペスの萩野さんが、夢見るように踊るように歩きだしました・・・これまた、わからないことでした。頭を抱えて、課長はうりました。
「・・・・それで、熱田くん。さっき、君が、「やった」という、首魁とやらは、つまり、その、部長のことなのか?」
熱田くんは無言で目を見開きました。課長に向けて明るく見開いた。
「どうなんだ?君が殺ったというのは、つまり、そういうことなのか?しかも君、僕が命令して、そういうことをやったとかいったというじゃないか!困るよ!そんなデタラメをいっちゃあ!」
熱田くんの目は澄んでいました。
いやになるほど・・・課長は思うのです、悪夢だ。これは、とんだ悪夢だ。ますます大きく見開かれる熱田の目を見て、課長はいやになってしまい目を閉じました・・・
・・・誰かが課長の肩に手をおきました。
課長は目を開けました。
課長の顔の上から、見覚えのある美男顔がのぞきこんでいました。
「総務課長」
「あ・・・」
「よかった、気がつきましたね」
「あなたは・・・」
課長の顔をのぞきこんでいたのは、昼間、事務所に現われた刑事の若い方でした。
「首は大丈夫ですか。少し痛むでしょうが、かすり傷程度です、刺さったというものではありません」
課長は路上に横たわり、刑事に抱き起こされていたのです。思わず首に手をやりましたが、刑事のいうとおり、ほんの少し血が滲んでいる程度でした。
「やつらは・・・」
「逃げましたよ。あぶないところでした。たまたま通りかかって、僕が追い払いました」
「そう、ですか・・・」 頭の奥がじいんと痺れています。「いやあ、まるで、夢でも見ているような・・・」
「やつらは、課長さんの知りあいですか?」
「いいえ。今夜はじめて会った連中です」
「ここで初めて会った?」
「いや、地下鉄から尾行されていたようです。私は、てっきり警察かと・・・」
「警察?」
・・・・・つづく
今日も音楽なし。戦場のメリークリスマスのはずだったのに。
このさい、ブレヒトを勉強しよう。そろそろブレヒトの時代だ。
新訳で読もう。有名なセリフを学習。
「英雄のいない国は不幸だ」
「それは違う!」
「何が違うんだ?」
「英雄を必要とする国が不幸なんだ!!」
今年9月に俳優座が「セチュアンの善人」をやります。
来年は文学座が「肝っ玉おっかあと子供たち」をやるそうです。
世界で戦争がつづく毎日、ちょっとまたブレヒトの時代かもしれん。