大手町のゴースト2024 36 ゴースト・エアー | 新庄知慧のブログ

新庄知慧のブログ

私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

36

 

 

 

 

 

 

 

 

「課長!」

 

  見上げても目の焦点が定まるまで時間がかかりました。やがて相手の顔の輪郭がはっきりし、課長はまた驚きました。

 

「あ。熱田くん!」

 

「すみません。まさか課長とは・・・」

 

「痛い。痛いじゃないか、熱田くん」

 

「本当にすみません、僕はてっきり、一味の奴かと思って」

 

「一味」

 

「部長の一味です」

 

「はあ?」

 

  熱田くんは、いや本当にすみません、と、またいってから、靴磨きのおばさんを気遣ってか彼女に向い、

 

「萩野さん、こいつは一味じゃありません、私の上司です」

 

「あなたの、上司?」

 

「それに、萩野さんの上司じゃないですか」

 

「私の?そんなはずは・・・だって飛び降りてしまいましたよ、私の上司は。ビル建設談合の汚名をきせられて、自殺させられてしまった・・・」

 

いいながら靴磨きのおばさんは、目をつり上げたのです。おとなしい人格の底に秘められていた感情が、おさえきれずに噴き出した表情でした。

 

眉毛は存在しないのですが、眉毛のあたりの表情筋が、恐ろしい角度で、ほとんど垂直に屹立したのです。

 

怖い顔でした。熱田くんは気押された。

 

「・・・そうでしたね。失礼。じゃあ、よくわからないな、まあ、そのうちに、わかるかな?」

 

あいまいなまま、熱田くんはその件を打ち切りました。地面に尻餅ついたままの課長に向い、

 

「それよりも課長、ご報告します。私は、やりました!」

 

「やりましたって、何を・・・」

 

  課長はいやな予感がしました。熱田は胸をはりました。

 

「首魁をです。首魁をやりました」

 

「首魁?!」

 

「あるいは構造。簡単なんです、汚職のしくみは、いつも簡単なんです、水増しです、値引きです、キックバックです、終戦直後だろうと、高度経済成長期だろうと、バブルの時代だろうと・・・」

 

それから熱田君はいろいろと語った、 課長には何をいっているのか解らない点が多々あったのですが、つまり、不正の歴史や構造を知った、

 

そして警察は警察でないと語り、敵はリバイアサンつまり国体という幻想だと語り、しかしその幻想に対峙する、

 

何かエアーのようなものがあるのだと、語ったのですが・・・総じていうと、「わからない」話だった。

 

「ゴーストエア?」

 

課長は首を傾げて、いった。すると熱田くんは意を得たという顔で、

 

「ああ、そういうのですね!」

 

嬉しそうに、いったのです・・・

 

 

・・・・つづく

 

 

 

今日も音楽なし。エラーが治癒しませんガーンショボーン