30
「おちつけ・・・ふん。ひょっとして何ですか、課長が主犯ですか?
いえ、わかります、あれだけ辛い目にあってたんですから、殺してやったって、
いっこうに構わない、課長が殺ったってあたしは、もっともだと思う。ねえ、そうなんでしょう?
だって、あてつけみたいに後輩の、それも女を、すぐ横の花形課長席に抜擢して、え?
まるで総務課長いじめじゃないですか。わかりますよ、その気持、
おまけにあの出来損ない新人を、花形課長から押しつけられて苦労させられて!」
課長は狼狽のあまり、天野氏の口をふさごうとしました、
「何です!何ですか、この手は!」課長の手をはらいのけ、「私を信じてください。私は課長の気持がよくわかる!
いいんですよ、殺しくらい。やってしまってバンザイだ。
お人好しもいいかげんにしなさい、少しは手荒なことでもしなきゃあ、
さいごは、私みたいになっちゃいますよ!」
ほとんど涙声になって、天野氏は叫んだ、
「人生、廃業!」
「何をいってるんです!」
課長はめまぐるしく考えました。どうしたらいいのだ。
「やってませんよ僕は!何いってるんです。熱田君から変な電話があったというだけでしょう?彼はどうかしてたんです、それだけですよ」
「だって昨日、課長は熱田と飲んでたっていうじゃないですか」
「そうですよ、だからどうしたっていうんです」
「だからそこで、指示だってできるでしょう」
「何をまた、馬鹿な・・・」
「馬鹿って、なんです。私は何もいってませんよ、今日の昼間だって、刑事に何もいってませんから、安心してください」
「別にいってもらってもかまいませんよ、根も歯もないことですから」
「あ!」
「何です」
「そういえば、休みだったな、あの人。こんなことは、彼女、入社以来はじめて」
「え」
「朝倉ですよ、あの、課長の憎っくき後輩女!ひょっとして、あの女もいまごろ・・・」
天野氏は、はからずも私は次の事件の真相を解明してしまった、といわんばかりの恍惚と茫然の目で課長を見ました。その目は完全なアルコール酩酊状態でした。
つきあいきれない・・・
課長は立ち上がり振り向いて、後ろの席の2人に弁明しようとしました、
「違います、ちゃんと調べればわかります、この天野氏は、とんでもない勘違いをしている!」
そういおうとしました・・・
しかし二人は知らん顔していた。何も話などきいていなかったという顔だった。課長とは視線をあわせようともしません。
「・・・・」
・・・・つづく