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ここで何をいっても無駄?刑事の尾行を知っていたなどといったら、彼らのメンツをつぶし、逆上させ、かえって不利なことになるかも・・・
「どうしました、お知り合い?」
酩酊声で天野氏がたずねました。
「いえ・・・」
振り向き、もとの席に座り、わかりました、天野さん、貴重な情報ありがとう、
あした、よく検討しますから、その話はもうよしましょう、もう帰りましょうとなだめましたが、
まだまだ、もう一杯飲みましょうと天野氏はきかず、仕方なく課長はつきあい、面白くもない馬鹿話をしました。
そのうち尾行の二人連れは先に店を出ていきました。
捜査本部に報告でもするのだろうか、これで話はややこしくなる・・・やけになり、課長もしたたか酒を飲みました・・・
「何てことだ!」
店を出て、天野氏とやっと別れ、やりばのない怒りが噴出しました。
もう今夜は尾行がいようがいまいが、知ったこっちゃないという気分になったのです。
銀座場末のひなびた飲み屋街を、むかつく胸をかかえて、やや千鳥足になって、しばらく、でたらめに、課長は歩いたのです・・・
場末のネオン街の、そのまた場末の暗い通りに来ました。初めて来た通りで、迷子になったのに近い。駅はどっちの方角だったろう?
裏通り。
そこはネオンの街から一本か二本、裏手の暗い通り。道端に、大きな、ゴミのポリバケツがいくつか並び、
よりそって、ゴミで膨れ上がった半透明のビニール袋が積まれているのです。
廃棄され、潰されたり、潰れかかったダンボール箱が積まれているのです。
不意に課長は立ち止まりました。
背後に誰かいる・・・・
課長は振り返りました。
そこにいたのは、あの二人連れでした。
「あ!いやあ、どうも」
課長は思わず会釈してしまう。やや呂律のまわらない舌で、弁明をはじめてしまう。
「さきほどは、聞き苦しい変な話を聞かせてしまって!
私のとなりにいた人は、実は私の部下でして、妙な話をしてましたが、あれは違うんです、きっと。
いや、調べてもらえばわかります」
しかし二人は無表情のまま、立っているまま。課長は焦る。
「熱田くんが・・・熱田というのはご存知かと思いますが、今日、無断欠勤した私の部下でして・・・
熱田くんが変な電話をしてきたのは、きっと熱田くんの勘違いでして、
それから、私が部長をどうこう思っているといってましたが、あれは、あの部下の、
まったくの思い込みです!事実はまったく違うんですから!」
饒舌そのもの。しゃべりつつ、不安が増し、ますます饒舌になるのが止められない。
・・・・つづく