製氷室のマリア18 憎しみにみちた眼 | のむりんのブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

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獣のような唸り声がその口から発せられた。

 

そうだ、ここは北海道だ。さすがは北海道だ。白熊みたいな毛皮のおばさんを尾行してきた探偵に、こういう歓迎をしてくれるのだ。

 

その生き物は、両手の爪をたてて私に飛びかかった。

 

私は危うく身をかわした。解凍前の肉体にとっては良い運動だ。

 

生き物は、私の後方に飛び、雪の山に激突しそうになって踏みとどまった。踵で雪の地面を蹴って振り返り、また私に襲いかかった。

 

「やめろ!」

 

私は叫び、パンチを繰り出したが、動作はいまひとつ緩慢だった。

 

生き物は私の下腹部に頭突きを食らわせた。両手の拳で、滅茶苦茶に私を殴った。

 

私も応戦し、その生き物の頭に少なくとも2発はパンチを当てたが、敵の攻撃はその3倍は激しかった。

 

私は尻餅をついた。耳に火箸を当てられたかのような激痛を感じた。生き物の爪が耳を引き裂いたのだ。

 

血が飛んだ。

 

焦った私は、必死で腕を振り回した。ところがその腕をつかまれ、二の腕のあたりに噛み付かれた。生き物は牙を私の腕の肉に突き立てて、凄まじい唸り声を上げた。

 

皮肉なことに、この格闘で私の肉体は完全に解凍されたようだ。体全体に火照りを感じた。

 

同時に、肉に食い込む牙の痛みが電気のように全身に走った。

 

私の腕から血が流れ出す。次第に衣服に沁みてゆく。私は痛さにあえぎながらも、抗戦を試みて、食いつかれていない方の腕と手を使い、自分に食いつく、この得体の知れない生き物の髪の毛をつかんで、自分から引き離そうとした。

 

髪の毛を強くつかみ、顔を上げさせた。

 

紫の闇の中に、その生き物の目が、ギラリと光った。

 

獣だ。

 

この目は獣に違いない。しかし獣よりもまだ恐ろしい。獣にはない、憎悪の眼光がある。

 

獣はこんな憎しみに満ちた目なんかしていない。これは、獣なんかとは比較にならないくらい恐ろしい、人間の憎しみの瞳、人間の目そのものではないか。

 

すると、声がした。

 

「やめれ!」

 

北海道弁だ。

 

またもや意識が薄れて、また気絶するのかと、いやになっているところへ、北海道弁が声をかけた。

 

「やめれ、ぼんず、だめでないの。やめれ!」

 

新たな登場人物。それは女性の声だった。鋭い声だった。

 

その女性は、やめれ、やめれ、と叫びながら、白いパウダースノーの地面の上を私たちの方に駆け寄ってきた。

 

・・・・・つづく