製氷室のマリア16 現実の痛み | 新庄知慧のブログ

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私のいろんな作文です。原則として日曜日、水曜日および金曜日に投稿します。作文のほか、演劇やキリスト教の記事を載せます。みなさまよろしくお願いします。

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空は本当は晴れているはずなのに、身近な空間は猛吹雪で、いよいよ白一色になった。

 

私は目をこらして、セツ子を見た。

 

道が続いていて、その向こうに黒いものが見えたが、彼女なのか、立木なのか、頼りなく思えた。

 

こんな状況の中で、彼女は、大丈夫だろうか?行き倒れになっては大変だ。私は足を速めた。もう、尾行どころの騒ぎではない。

 

私は、さらに大きく目を見開いた。

 

自分の目が、一瞬、キーン、と音をたてたように感じた。見開いた瞳が、瞬間冷凍されたのではないかと思った。

 

私は眉間に皺をよせてから、再び、さらにしっかりと目を開けようとした。

 

そのときだった。

 

私の頭の中に閃光と激痛が走った。

 

視界いっぱいに広がっていた真っ白な世界が、金色に熱せられたように輝き、どす黒い赤色に急変し、一瞬にして砕け散った。

 

今まで目にしていたものが、ガラスに映し出されていた映像に過ぎなくて、そこに鋼鉄の弾丸が撃ち込まれ、砕け散った。しかも激痛とともに。そんな感じだった。

 

私は全身を痙攣させ、次に硬直し、鉄の棒きれにでもなったようにして、道端にばったり倒れた。

 

・・・・・・・

 

闇の中を私は飛んでいた。

 

闇の中を急降下し、鋭く垂直に上昇した。闇は、妙な言い方だが、垂直に切り立っていた。そう感じられた。

 

激しく上昇・下降する自分の体は、体ではなく、質量がとてつもなく大きいが、容積はきわめて小さな、鉄の玉にでもなったようだ。

 

夢だ。これは夢だ。

 

私はそう悟り、苦笑いした。吹雪の中で、元女優のおばさんを尾行中に、何者かに後頭部を殴られて、脳震盪をおこして気絶したのだ。

 

すると、切り立った闇に、無数の白い粉が吹き荒れ出した。

 

吹雪だ。

 

闇の向こうから、美咲セツ子の顔がこちらを覗いている。

 

手に銃を持っている。

 

撃つつもりなんだろうか。何のために?私は後ろに標的がいるのではないかと、後ろを振り向く。すると、ヨコハマの海岸通りの、あのビルが闇の中にゆらめいている。

 

美咲セツ子と、あの暴力団事務所の関係を洗う必要がある。早急に。

 

しかし、自分は、北海道の雪の原野で気絶している。こんなぶざまなことでは、洗うどころの話ではない。情けない。闇の夢の中を、さまよっているうちに、途端に凍死してしまう。

 

私は悔しい思いで右手の拳を握り締め、自分の頬を殴った。

 

痛かった。…夢なのに、なぜ痛い?

 

私は目を開けた。涙が出た。

 

頭の中に、ガラスの破片のようなかき氷が詰め込まれているように感じた。一度目を閉じて、また開いた。頭の痛みはさらにひどい。これは現実の痛みだ。

 

 

・・・・つづく

 

 

mukasi mukasi no uta desu.