16
空は本当は晴れているはずなのに、身近な空間は猛吹雪で、いよいよ白一色になった。
私は目をこらして、セツ子を見た。
道が続いていて、その向こうに黒いものが見えたが、彼女なのか、立木なのか、頼りなく思えた。
こんな状況の中で、彼女は、大丈夫だろうか?行き倒れになっては大変だ。私は足を速めた。もう、尾行どころの騒ぎではない。
私は、さらに大きく目を見開いた。
自分の目が、一瞬、キーン、と音をたてたように感じた。見開いた瞳が、瞬間冷凍されたのではないかと思った。
私は眉間に皺をよせてから、再び、さらにしっかりと目を開けようとした。
そのときだった。
私の頭の中に閃光と激痛が走った。
視界いっぱいに広がっていた真っ白な世界が、金色に熱せられたように輝き、どす黒い赤色に急変し、一瞬にして砕け散った。
今まで目にしていたものが、ガラスに映し出されていた映像に過ぎなくて、そこに鋼鉄の弾丸が撃ち込まれ、砕け散った。しかも激痛とともに。そんな感じだった。
私は全身を痙攣させ、次に硬直し、鉄の棒きれにでもなったようにして、道端にばったり倒れた。
・・・・・・・
闇の中を私は飛んでいた。
闇の中を急降下し、鋭く垂直に上昇した。闇は、妙な言い方だが、垂直に切り立っていた。そう感じられた。
激しく上昇・下降する自分の体は、体ではなく、質量がとてつもなく大きいが、容積はきわめて小さな、鉄の玉にでもなったようだ。
夢だ。これは夢だ。
私はそう悟り、苦笑いした。吹雪の中で、元女優のおばさんを尾行中に、何者かに後頭部を殴られて、脳震盪をおこして気絶したのだ。
すると、切り立った闇に、無数の白い粉が吹き荒れ出した。
吹雪だ。
闇の向こうから、美咲セツ子の顔がこちらを覗いている。
手に銃を持っている。
撃つつもりなんだろうか。何のために?私は後ろに標的がいるのではないかと、後ろを振り向く。すると、ヨコハマの海岸通りの、あのビルが闇の中にゆらめいている。
美咲セツ子と、あの暴力団事務所の関係を洗う必要がある。早急に。
しかし、自分は、北海道の雪の原野で気絶している。こんなぶざまなことでは、洗うどころの話ではない。情けない。闇の夢の中を、さまよっているうちに、途端に凍死してしまう。
私は悔しい思いで右手の拳を握り締め、自分の頬を殴った。
痛かった。…夢なのに、なぜ痛い?
私は目を開けた。涙が出た。
頭の中に、ガラスの破片のようなかき氷が詰め込まれているように感じた。一度目を閉じて、また開いた。頭の痛みはさらにひどい。これは現実の痛みだ。
・・・・つづく
mukasi mukasi no uta desu.