「ねぇ、最上さん。」
「っは、はい………。」
歪めた表情を、必死になって元に戻そうとしているのだろう最上さんは、余計に微妙な顔になってしまっていた。そんな少女を見つめながら、意識してニッコリと微笑んで見せる。
「呪いの解き方って、知っている?」
「え?」
俺からの質問に、最上さんの表情が一瞬にして普段通りの『最上キョーコ』のものに変わる。
「呪いの解き方、ですか?」
「うん。」
俺の質問をそのまま返してくる彼女に、頷き、肯定する。
「…………………。」
「…………………。」
しばらく続く、沈黙。
その間に、目の前の少女は大きく目を見開いた状況から、徐々に顔を赤らめ……そして、再びくしゃりと表情を崩した。
最上さんの考えたことはすぐに想像できる。
なぜなら、その救出の仕方を教えたのは『俺』なのだから。
『鶴賀蓮』は知らないけれど、妖精『コーン』は知っていた、古より変わることのない、呪いをかけられたものを救う伝統的な方法。
「私、以前…妖精のコーンから、呪いの解き方を教えてもらいました。」
「そう。」
「それは、昔から童話などで語り継がれている伝統的な方法だったんです。」
「具体的には?」
「……………。その………。愛する、人からの、口づけ…です。」
言いながら、大きな瞳に涙をあふれさせる最上さん。
そんな可愛らしい彼女に、何とか理性を総動員して獣化を防ぐ。
落ち着け。今、下手を打てば彼女は手に入らない。
ちゃんと誘導して、自ら罠へと飛び込ませて。
俺の手の中に堕ちてからでないと。
「そうか。」
「敦賀さん。キョーコちゃんさんと、キスをしてみてください。きっと、私がかけた呪いは全て解かれます。」
「うん、分かった。俺が愛するキョーコちゃんとキスをしたらいいんだね?」
「はい。そうしたら、きっと幸せになれます。」
彼女の言う通りだろう。
最上さんとの口づけは、これまでに2回。
少女がくれた口づけは、触れたか疑わしいほどに一瞬にして終わってしまったけれど、よくよく考えてみれば『彼女が自ら動いて初めてキスをした』相手は俺ということになるのだから、それが軽い接触であったとしても十分満足できるものだ。
そして、あまりにも愛しい少女に、俺から不意打ちでしたキスは、彼女にとっての『ファーストキス』としてカウントされることになった。
いずれもが胸が苦しくなるほどの愛しさと、幸せに満ち足りた口づけだった。
では、これから迎える3度目のキスは、一体どんなものになるのだろう?
「それじゃあ、最上さん。君からする?それとも、俺から?」
「……え?何が、ですか?」
「俺はどちらでもいいよ。」
「えっと、何をするんでしょうか?」
「何って。どうしてわからないの?」
本当に分かっていない戸惑いの表情を浮かべる最上さんを、クスクスと笑いながら見つめる。分からないことがさもおかしなことだというように笑ってみせると、少女の顔が強張った。
……多分、俺は随分と意地悪な笑顔を浮かべているのだろう……
だって、彼女の口が「いじめっ子、リターンズ!!」と動いている。
好きな子をいじめる、というのは、成長途中の少年期に避けては通れない儀式のようなものだと、貴島が話しているのを聞いたことがある。
彼のような男でさえ、そのような道を通らねばならなかったのなら、恋愛方面でいえば卵をやっと割って、雛になったばかりの俺が、大好きな女の子をいじめてしまうのは当然の行為なのだろう。
彼女の前で、大人で紳士な男でいられるわけがない。